投資家が重視する SaaS スタートアップの評価指標とは
- 投資家がスタートアップに出資を決める基準として、事業の健全度や成長性を測る指標を見ている
- MRR、Churn、Unit Economics などをまずはじめに理解しておく必要がある
- 基本的な指標を理解し、まずは健全とされる水準を達成することが、資金調達・経営を成功させる一番の近道である
投資家がスタートアップに出資を決める際に基準としているものは何でしょうか。
ビジョンや情熱よりも、重要視されるのは事業の健全度や、成長性を測るための適切なメトリクスです。
また、これらは資金調達だけでなく、経営者が自身の事業を成長させていく上でも非常に重要な指標です。
この記事では SaaS スタートアップが見るべきメトリクスと、その概念について解説していきます。
→ダウンロード:サブスクリプションビジネス経営者が見るべき KPI 10選
目次
(Net) MRR
(Net)MRR は Monthly Recurring revenue の略称で、月間経常収入のことを指します。MRR は、新規課金ユーザー、より高額なパッケージに乗り換えたユーザー、既存課金ユーザーのチャーン、より低額パッケージへの乗り換えユーザー、をそれぞれ合算して算出する実質の売上で、顧客との継続的な契約を結ぶビジネスモデルである SaaS 企業(月額・従量課金制でソフトウェアを提供している企業)において適用されるメトリクスです。MRR においてはアップセルとクロスセルを狙い、いかにしてチャーンとダウングレードを防ぐかか重要となります。
MRR は以下の計算式で求められます。
(Net) MRR=前月の MRR+New MRR+Expansion MRR+Downgraded MRR+Churn MRR
New MRR
New MRR は新規課金ユーザーから得られる MRR です。
[例] : 3人の新規顧客が10万円/月のプランに加入した際の New MRR は30万です
Expansion MRR
Expansion MRR は、既存ユーザーがより高額なプランに変更した時(アップセル)や、他のサービスに加入した時(クロスセル)に追加で計上される MRR です。
[例]顧客 A が10万円/月を20万/月のプランに変更し、顧客 B が15万円/月を20万/月に変更した月の Expansion MRR は15万円です。
Downgraded MRR
Downgraded MRR は、既存ユーザーがより低額なプランに変更する際に計上される、MRR 損失です。
[例]顧客 A が20万円/月を15万/月のプランに変更し、顧客 B が15万円/月を10万/月に変更した月の Downgraded MRR は10万円です。
Churn MRR
Churn MRR は、顧客のサービス解約によって生じる MRR 損失です。
[例] : 顧客 A、B、C が10万円/月のサービスを解約し、顧客 D、E が20万円/月のプランから10万円/月のプランに変更した際の Churn MRR は、50万円になります。
(Net) MRR growth rate
SaaS 企業が見るべきメトリクスの中でもかなり重要なものの一つで、MRR の月次成長率を表します。この指標を使うことにより、会社の成長速度や事業の健全度を明らかにすることができます。
MRR growth rate は以下の計算式で求められます。
Churn rate
Churnとは顧客の解約を意味します。Churn rate は解約率を指し、顧客ベースである Customer churn rate と、金額ベースである MRR churn rate(gross&net)があります。いずれも SaaS ビジネスの成長可否を考える上で見落とすことができないメトリクスです。
Customer churn rate(顧客ベースのチャーンレート)
MRR churn rate(金額ベースの解約率)
金額ベースである MRR churn rate には、さらに Gross MRR churn rate と、Net MRR churn rate の2種類に分けられ、チャーン状況を正確に把握するためにはどちらも理解しておく必要があります。
Gross MRR churn rate
その月に失った MRR のチャーン比率。
Net MRR churn rate
その月に失った MRR から Expansion MRR(アップセルやクロスセルによって増加した MRR)を取り除いた、実質のチャーン比率。
Negative MRR Churn
Negative MRR Churn とは、Net MRR churn rate がマイナスになることで、アップセルやクロスセルによって増加した MRR が、解約やダウンセルによって減少した MRR を上回るという意味です。ネガティブチャーンを達成することは事業の成長を勢いづける上では欠かせません。
Unit Economics
Unit Economics(ユニットエコノミクス)とは日本語で”1単位あたりの経済”、SaaS ビジネスにおいては”顧客1単位における獲得コストと得られる収益のバランス”を表します。ビジネスモデルが健全に機能し、今後成長するポテンシャルがあるのか適切に評価できるフレームワークです。
Unit Economics は以下の計算式から求められます。
スタートアップでは、ユニットエコノミクスの理想値は3以上、つまりLTV:CAC=3:1が健全な基準とされています。
→合わせて読みたい:なぜ SaaS では Unit Economics が重要なのか?
LTV(顧客生涯価値)
LTV とは、一人の顧客から生涯に渡って得られるキャッシュのことです。簡単な例で言えば、一人の顧客が10万円/月のプランに加入し、3か月の利用後に解約した場合の LTV は30万円になります。LTV は以下の計算式から求められます。
- ARPA(Average Revenue Per Account)=顧客一人当たりの月間売上。
- Gross Margin=売上総利益率。売上高総利益÷売上高。
- Customer Churn rate=顧客/シート数ベースのチャーンレート(今月解約した顧客数÷先月の顧客数)
CAC(顧客獲得コスト)
CAC は顧客獲得単価のことで、一人の顧客を獲得する際にかかる費用のことです。自然流入の顧客コストである Organic CAC と、費用支出によって獲得する顧客獲得コストである Paid CAC、そしてそれらを組み合わせた Blended CAC があります。一般的な CAC は Blended CAC を指す場合が多いですが、顧客獲得チャネルや活動の ROI を厳密に考慮したい場合は、Paid CAC が重視されることがあります。
CAC は以下の計算式から求められます。
Paid CAC=Total acquisition cost(有料チャネルにかけた全コスト)# of New customer acquired through paid marketing(有料チャネルから得た新規顧客数)
CAC Pay back period(顧客獲得コスト回収期間)
顧客の獲得にかけた費用を利益で回収するのにかかる期間です。期間が短ければ短いほど、マーケティング及びセールスの顧客獲得戦略の費用対効果は高いと言えます。健全なキャッシュフローを目指す上では欠かせないメトリクスです。
CAC payback period は以下の計算式で求められます。
健全な CAC Paybck period の目安は6〜12ヶ月だとされています。
まとめ
MRR、Churn、Unit Economics、CAC Payback periodなど、SaaS ビジネスを推進していく上で欠かせない基本的なメトリクスを理解し、まずは健全とされる水準を達成することが、資金調達・経営を成功させる一番の近道です。不確かな勢いで乗り切るのではなく、数字という合理的な根拠を元に自社の価値を展開しましょう。
事業を維持・拡大するためには、上記で説明したメトリクスに加え、定点観測するべき指標があります。
こちらでサブスクリプションビジネスの成功に欠かせない KPI 10選をまとめていますので、是非この機会にご覧ください。
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