【名大発VB、オプティマインド】大学発SaaSベンチャーのための3つのメトリクス
大学ベンチャー最前線シリーズ、記念すべき第1回は、名古屋大学発の技術ベンチャー企業、株式会社オプティマインドに焦点を当てて展開していきます。
同社は2月21日に開催されたICCサミットFUKUOKA2019にて見事優勝された、まさに大学ベンチャーの最前線で活躍されている企業です。
目次
1.株式会社オプティマインドとは
同社は”ルート最適化技術”というコア技術を基にした”クラウドサービス「Loogia」”を提供し、”配送ルートの最適化による物流革命”を起こしている企業です。
コア技術:ルート最適化
株式会社オプティマインドのコア技術は、ルート最適化技術にあるといえます。
社内の専門的な研究者に加え、組み合わせ最適化領域の研究者である名古屋大学の柳浦睦憲教授を顧問に擁し、 最先端のルート最適化技術の研究開発に取り組んでいます。
直近では大手企業との実証実験や提携を実施し、実際の走行データを活用しながら、さらなる最適化技術の実現が期待されています。
ルート最適化技術によって、様々な制約を考慮しながらも、なるべく少ないリソースで、たくさんの荷物を配送するルートの構築が可能となります。
コア技術に基づいたクラウドサービス「Loogia」
同社は、コア技術であるルート最適化技術や機械学習を用いた配送ルート最適化クラウドサービス「Loogia」を2018年9月にリリースしました。
既に10社以上の企業で試験導入含め利用されているとのことで、実証実験では1人当たりなんと月約15万円もの費用削減が報告されています。
これほどの費用削減は、「Loogia」が人力で作成していた配送ルートの作成コストの削減と、人にはできないような配送ルートの効率化を実現したからこそ達成できたことであるといえます。
「Loogia」の背景にある2つの社会問題
「Loogia」が求められる背景には、大きく以下の2つの社会問題があります。
運ぶ荷物は増え続けている一方で、それを運ぶ人材が不足していく今だからこそ、「Loogia」による配送ルートの最適化は物流に革命を起こし始めているのです。
株式会社オプティマインドが目指す未来像
新しい世界を、技術で創る。
解決したい課題があり、追求したい技術がある。
その先に、見てみたい世界がある。
これは株式会社オプティマインドのHPで示されている、同社が掲げるビジョンです。
同社は、研究開発に励む優秀な人材と、コア技術といえる最適化アルゴリズムを強みとして、このビジョンの実現に向けて邁進されています。
株式会社オプティマインドの躍進のために
これまで、名古屋大学発ベンチャーである株式会社オプティマインドがどういうサービスを展開しているのか、どういう問題を解決しようとしているのか簡単に紹介してきました。
株式会社オプティマインドのような大学発技術ベンチャーはそれぞれが最先端のコア技術を有し、コア技術が製品として具現化したとなれば、今後の成長への期待は一層高まります。
しかしながら、製品化を終えた大学発技術ベンチャーを待ち受けるいくつかの山場が存在することを忘れてはなりません。
長い時間を費やした研究開発の成果を製品として販売し、ビジネスとして結実させるには、マーケティングやセールスの視点が重要となります。
次節では、大学発技術ベンチャーが実際に経験した3つの事例を紹介しながら、ビジネスを加速させていくためには、不可欠といえるマーケティング・セールスの知見を提供します。
※尚、次節で紹介する事例は、株式会社オプティマインドのような大学発技術ベンチャーで過去に発生した事例であり、株式会社オプティマインドの事例ではないことをあらかじめご承知ください。
2.大学発技術ベンチャーが躍進するための3つの経営指標
過去に実在した大学発技術ベンチャーが経験した事例を交えつつ、同じ状況に陥らないために日頃からチェックしておくことをお勧めする3つの経営指標を紹介します。
事例1:効率的な販売体制の構築-事業の効率性を測るROI
製品がリリースできる段階に到達した企業は、本格的にその製品を販売していく体制を整えていく段階に入ります。
どんなに高い技術力を有していても、どんなに画期的なサービスであったとしても、その製品が販売されなければ、ビジネスの世界では自己満足となってしまいます。
大学関係者が多くを占める大学ベンチャーの場合、マーケティング・セールスの経験が豊富な人材を獲得することは容易ではありません。
上のグラフを見ても、営業販売人材に対する人材獲得の満足度は、他の領域の人材と比較すると低位となっていることがわかります。
特に技術ベンチャーの場合、技術者・研究者の確保が他の企業よりも先行し、マーケティング・セールス部門への投資は後手に回りがちとなる傾向にあるのかもしれません。
マーケティング・セールス部門へ投資をしたとしても、それが顧客獲得につながっているかモニタリングすることは不可欠です。
例えば、ここ数年で、マーケティング・オートメーション(以下MA)ツールや顧客管理(CRM)ツールを活用したマーケティング・セールス部門の強化をされる企業が増えていますが、ツールを入れたから必ずうまくいくとも限りません。
LeadMD “The 2016 Marketing Maturity Benchmark Report” (2016)では、MAツールの活用で見込み顧客が”劇的に増加した”と答えている企業は約20%で、約半数が”増加しなかった”と回答しています。
過去にどんな施策をしたかだけでなく、施策によって事業の効率性がどうなっているか可視化できていないと、正しい経営判断をするのは至難の業です。
事業の効率性を測定するための指標がROI です。
顧客を獲得するためにどれだけ費用がかかっていて、そこからどれだけ顧客を獲得できているのかをリアルタイムで定量化することができます。
ただし、マーケティングのデータだけ、セールスのデータだけといった一部のデータを使ったROI の測定をしていても、局所最適な施策にしかならない可能性もあります。
株式会社オプティマインドの「Loogia」が、複数のデータを活用して最適なルートを見出すように、マーケティング・セールス・顧客の活動データなど複数のデータを俯瞰して、ROI を測定することが大切です。
事例2:新規顧客の獲得-販売の効率性を測るSales Velocity
販路開拓のために、代理店に販売システムを移管するという選択をされる大学ベンチャーも存在します。
事例2からは、企業の扱う製品の性質によっては、必ずしも代理店方式が上手くいくとは限らないことがわかります。
例えば技術ベンチャーの場合、優位性そのものであるコア技術が代理店に伝達されないことに起因する、顧客獲得の伸び悩みが生じるケースも考えられます。
自社の優位性がどこにあるのかが顧客に理解されなければ、他社のサービスとの差別化ができないことで、不利に働いてしまうことも考えられます。
自社で販売を内製化するべきか、あるいは代理店に任せるべきか。
その判断をするために、販売体制の効率を定量化してみるというのはいかがでしょうか。
例えば、セールスチームの稼働効率を測定する指標として、Sales Velocity というものがあります。
Sales Velocity については、こちらの記事で解説しています。
事例3:資金繰りの予測-SaaS企業で重視されるChurn Rate・MRR
サブスクリプション・ビジネスを前提とするSaaS企業の性質上、買い切り型のビジネスと比べて、資金回収の長期化は避けられません。
特に研究開発も並行して行わなければならない場合、完成までにいくらかかるのか、いつまでに完成できるのかはどうしても不確実で、経営層の判断が必要となります。
資金繰りが悪化すれば、どんな経営者も不安になるだけでなく、VCや銀行の投資判断にも当然影響してきます。
事例3の企業は幸いにして倒産は免れていますが、資金回収の見込みだけでなく、資金繰りの予測についてもリアルタイムに可視化できるだけで、経営判断の幅は広がります。
さまざまなデータを活用できる時代になったからこそ、スタートアップでも経営指標は重視されはじめています。
SaaSスタートアップの支援で有名なシリコンバレーのVC、Social Capital はChurn Rate やMonthly Recurring Revenue(MRR)といったSaaS企業ならではの経営指標による投資判断をしています。
これらの指標はSaaS企業にとってはもはや必須ともいえる指標です。
まとめ
産学連携の体現者ともいえる大学発技術ベンチャーは、社会を変えていく画期的なコア技術の開発研究とコア技術の製品化に励んでいます。
どんなに優れた製品であっても、製品を販売する体制を整えていくことが必要となり、そこに苦戦する技術ベンチャーは実は多いようです。
本記事では、製品化を終えた大学発技術ベンチャーが躍進していくためのカギとして3つの事例を交えながら経営状況を可視化する指標を紹介しました。
もちろん今回紹介したような指標を算出するだけで満足してはいけません。
肝心なのはその指標を通じて、企業がどういう状態にあるか観察し、事業を成長させていくためにどんな策を講じればいいのか示唆を得ることにあるといえます。
躍進のための最初の一歩として、顧客との接点が多いSaaS企業だからこそ重要である経営指標を可視化していきましょう。
サブスクリプションビジネスでどのような指標をチェックすべきかは、こちらのe-bookで詳しく解説しているので是非ご覧ください。
参考
株式会社オプティマインドHP
警察庁交通局運転免許課 運転免許統計平成29年度版
日本の物流トラックドライバーの労働力は2027年に需要分の25%が不足。96万人分の労働力需要に対し、24万人分が不足と推計~BCG調査
国土交通省 平成29年度宅配便等取扱個数の調査及び集計方法
経済産業省 ベンチャー企業の経営危機データベース
LeadMD “The 2016 Marketing Maturity Benchmark Report” (2016)
Software-as-a-Service (SaaS) Secrets to Raising Venture Capital
オプティマインドは、“宅配ロボット×ルート最適化AI”で、次世代のラストワンマイル配送インフラを構築する(ICC KYOTO 2018 Honda Xcelerator)【文字起こし版】
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