BtoBマーケティングで陥りがちなABMの罠

執筆者

Account Based Marketing(以下ABM)は、BtoBマーケティングにおいて注目を浴びています。ABMとは、マーケティングと営業を連携させて、絞られたターゲット企業からの売り上げ最大化を目指す手法です。

具体的には、既存顧客の属性分析などに基づいてターゲットとなり得る会社ごとにプロファイリングし、優先順位の高い企業から重点的にアプローチしていくようにする仕組みです。

顧客になる可能性の高い企業から効率的に狙うことで成約率を向上させられるため、ABMの手法を導入するBtoB企業は増えています。Sirius Decisionの調査1)によると、2017年時点で92%のBtoBマーケティングのリーダーが彼らの戦略にABMが「非常に重要」もしくは「重要である。」と回答しており、ABMを取り入れるBtoBマーケターは年々増加しています。

ABM最大の課題は「実行能力の欠如」

非常に効果的で、今やBtoBマーケティングで欠かせない存在となっているABMですが、誰もがABMをすぐに導入・実行し、成功させられる訳ではありません。Salesforceによると、25.5%のBtoBマーケターがABMの最大の懸念点は「実行能力の欠如」と回答しています。では、具体的にどのような点の実行が難しいのでしょうか?

マーケティング・営業の連携

まず第一に考えられるのは、マーケティングと営業の連携がスムーズにできないということです。ABMは、マーケティング部門がプロファイリングした企業に対し、優先順位に沿って担当者が営業をする仕組みになっているため、マーケティング部門と営業部門の連携は欠かせません。しかし、マーケティングと営業は往往にして分断されやすい部門である上に、各部門の責任者や担当者はチーム内のオペレーション管理、チームメンバーのスキル向上、報告・連携など様々なタスクに追われ、他の部署との十分な連携を重点的に行える人材は不足しているケースがあります。そのため、ABMで鍵となる綿密な連携が取れず、マーケティングチーム側の意図が伝わらない、営業の状況が共有できていないということが発生します。

マーケティングと営業の連携を強化する具体的な方法は、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

【事業責任者必見】マーケティングとセールスの連携を強化する8つの方法

顧客分析

 Dun & Bradstreet’s sixth annual B2B Marketing Data Report2)によると、89% のBtoBマーケティングリーダーが、企業の営業・マーケティングを正しく導くためにデータが重要であると考えてはいるものの、その半数がデータの質には自信がないと答えています。それほど、有用なデータを確保することは難しい作業であると言えます。

データ分析のひとつである顧客分析は、効率よく成果を出すために役に立つ一方で、顧客を絞ってしまう作業であるため、慎重に行う必要があります。単に何を売っている企業なのか、ということや会社の沿革を調べても意味がありません。その会社や主要事業におけるキーパーソンは誰なのか、現在抱えている主要な課題は何なのかという点まで明らかにしましょう。

ツール活用

連携をとるために活用されるのが、社内用のコミュニケーションツールです。他にも、マーケティングチーム側では、企業属性分析のために、マーケティングツールが活用されることが一般的です。しかしそのようなツールは導入プロセスが複雑になっていたり、実際の運用方法のモデルケースが少なかったりすることから、導入したからと言って成果に繋がるとは限りません。また、営業チーム側では、SFA・CRMなどのツールの活用が今後の顧客分析の精度向上に繋がりますが、チームのメンバー全員がツールを正しく使いこなせないケースが多く見られます。

営業担当者がなぜツールを使いこなせないのかについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

【営業責任者必見】なぜあなたの部下はセールスフォースを入力しないのか

データ連携

SFA・マーケティングツールなどのツールを駆使し、たくさんのデータを扱って活用する必要のあるABMでは、それらのデータを連携させることが必要になります。 Dun & Bradstreet’s sixth annual B2B Marketing Data Report3)3)によると、39%BtoBマーケティングのリーダーはCRMなどの中核となるテクノロジー技術とのデータ連携に不安を感じており、さらに、14%はそれらのデータ連携がどの程度進んでいるのか全く検討がつかないと回答しています。

リソース不足

これまで挙げてきたように、ABM実行に伴うツール導入・運用や、組織改革には、人的、時間的、金銭的にリソースがかかります。そのためのリソースが揃っていないままABMを始めてしまうと、出せるはずだった成果を出すことができなくなってしまうのです。

ABMを成功させるのに必要な対策とは?

 上記のような課題が発生するABMを成功させるために必要な対策は以下のようなものであると言えます。

  • ツール活用
  • データ連携
  • 人的リソースと予算を用意
  • 顧客分析を綿密に行う

まとめ

 ABMを成功させるには、分断された営業チームとマーケティングチームをオペレーション・データの観点から連携・統合させる必要があります。さらに、ツール活用・連携では、その分野に詳しい人材やノウハウが必要になります。

近年、これらの役割を営業・マーケティングチームに属さない組織に担わせる企業が増加してきています。その組織はRevenue Opsと呼ばれ、データ管理・分析、オペレーション管理、メンバーの育成などを専門に部門横断的に担当します。米国ではシリコンバレーを中心にこのような組織の導入が年々進んでいます。こちらのe-Bookでは、BtoBビジネスでRevenue Opsが求められる理由を、BtoBビジネスの成長を妨げる4つの壁という観点から解説しています。無料でダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

《引用文献》

1)ONE MARKETING.The Marketing Nation Summit 2017 第三編~ABMはリーダーシップ開発&MAのサイエンス.ONE MARKETING.2022-05-30.https://www.onemarketing.jp/contents/marketing-automation-marketing-nation-summit-2017-03_re/,(参照2023-05-25).

2)Dun & Bradstreet.第6回年B2Bマーケティングデータレポート.
Dun&Bradstreet.
https://www.dnb.com/marketing/media/6th-annual-b2b-marketing-data-report.html?serv=OLMCMOMP105091&hp=t1t2&module=marketing&mm_campaign=B63B63741C1DA80313896E63B23F76A0&mm_replace=TRUE,(参照2023-05-25).