LTV/CAC比 ユニットエコノミクスとは?LTV 向上の戦略を解説
- ユニットエコノミクスとは、事業投資における効率性や健全性を測るための中長期的な分析に有効な指標である
- LTV と CAC はユニットエコノミクスの算出要素であり、将来の利益やキャッシュフローの予測にも活用できる
- LTV を上げるには、顧客ロイヤルティの向上を通じた ARPU と解約率のコントロールが大切
- 顧客満足度向上を通じた価格最適化戦略、CX向上のポイントは定量化、データ、相関性である
- LTV/CAC の比率を改善するには LTV の向上と CAC を抑えることが求められるが、CAC 低下に注力するより、事業へのプラス効果が高い LTV 向上を目指すべきである
SaaS といったサブスクリプションビジネスには、LTV と CAC で評価するユニットエコノミクスが重要です。
LTV と CAC からユニットエコノミクスを算出することで、企業の獲得効率や将来生み出すであろう利益の予測、顧客獲得の費用対効果の検証等に活用できます。
本記事では、LTV/CAC で導くユニットエコノミクスの意味や計算手法から、具体的に LTV/CAC を改善するための戦略的かつ要点を踏まえた実践可能な取り組み内容をお伝えします。
持続可能なサブスクリプションビジネスの成長戦略を描くためにも、LTV と CAC で割り出すユニットエコノミクスを把握して、ビジネス成長のための経営判断に活用していきましょう。
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目次
LTV/CAC比 ユニットエコノミクスとは?
LTV(顧客生涯価値)/CAC(顧客獲得単価)の比率で求められる「ユニットエコノミクス」とはどのような指標なのか、計算方法も合わせて解説します。
ユニットエコノミクスとは
ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、SaaS 等のサブスクリプションビジネスの普及によって重視されるようになった、事業投資の効率性や健全性を測るための指標です。
例えば、顧客1ユニットを獲得するのに妥当なコスト(CAC=Customer Acquisition Cost)と LTV を把握できれば、将来のある期間における利益や損益分岐点を予測することができます。
ユニットは製品やサービス等で設定して、算出することも可能です。
ユニットエコノミクスは、サブスクリプションビジネスで顧客をいかに効率的に獲得できているのか判断するための指標として役立ちます。
あわせて読みたい:なぜ SaaS では Unit Economics(ユニットエコノミクス) が重要なのか?
ユニットエコノミクスは短期的な収益の指標ではない
CAC に対する、顧客生涯価値(LTV)で求められるユニットエコノミクスは、特定の月や年単位で売れた金額など、点で発生する収益を計る指標ではありません。
例えば、MRR は特定の月に定常的にユーザーが支払う金額は示しますが、どれほどの期間ユーザーが同じ金額を払い続けるのか、もしくはサービスをアップグレードする可能性などは示しません。また、CRR(顧客維持率)は顧客との関係値を示しますが、毎月どれほどの金額を支払うかは示しません。
一方、ユニットエコノミクスは、「金額」「期間」の両面を変数として含むため、中長期的に期待できるユーザーあたりの利益や損益分岐点を把握できます。
サブスクリプションビジネスでは、初期に発生する顧客獲得コスト(CAC)の回収期間が長期化するため、ベンチマークとしてユニットエコノミクスが広く活用され、重視されています。
例えば、月額50,000円・顧客獲得コスト600,000円のサービスを提供するケースでは、1ヶ月間に獲得できる顧客増加数を一定とした場合、累積収支がプラスに転じるまでに2年前後かることがわかります。
ユニットエコノミクスは、SaaS などの継続利用を前提したビジネスや収益が累積値となるビジネスで重要視される指標なのです。
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ユニットエコノミクスの計算方法
ユニットエコノミクスは「LTV(顧客生涯価値)/CAC(顧客獲得コスト)」の計算式で求められます。
例えば、LTV が166,000円で CAC が50,000円の場合、ユニットエコノミクスは「166,000/50,000」の算式により「3.32」となります。ユニットエコノミクスは「3」以上であることが、事業の健全性を示す目安です。
3未満であるということは、事業が損益分岐点ギリギリのゾーンで行われてるということです。つまり、新規顧客獲得にかけたコストの回収期間が伸びてしまうので、利益が出るまでの期間が長くなってしまいます。
ユニットエコノミクスのベース「LTV」「CAC」
続いて、ユニットエコノミクスの計算に欠かせない「LTV(顧客生涯価値)」と「CAC(顧客獲得コスト)」をそれぞれどのように算出するのか見ていきましょう。
LTV(顧客生涯価値)とは
LTV とは「Life Time Value」の略で「顧客生涯価値」と訳され、顧客が自社と取引を始めてから終了するまでの間にもたらされる収益を示す指標です。
LTV の数値が高いということは、顧客が自社のサービスやブランド、サポートに満足しており、ファン化している状態であり、自社に資金を投じやすい状態であると判断できます。
LTV は一般的に、既存顧客を総計または商材、顧客セグメントごとに計算するもので、ビジネスの収益予測やサービス/ブランドへのロイヤルティ計測の指数としても活用可能です。
LTV(顧客生涯価値)の計算方法
LTV の計算手法は複数あるのですが、主に以下の算式で求められます。
LTV=平均購入単価×平均購入回数×平均継続年数
LTV=ARPU(ユーザーあたりの平均収益)/ Churn rate(解約率)
これらの計算式が示すように、ユニットエコノミクスの計算に使用する LTV は1度きりの購買で発生する収益ではなく、顧客が将来に渡って支払うと予測される金額や期間が加味されています。
例えば、ARPU(ユーザーあたりの平均収益)が5,000円で、解約率が3%となっているケースで計算してみましょう。
解約率からこのケースにおける継続期間は約33ヶ月ですので、LTV は約166,000円となります。LTVを向上させるには、これらの算式の変数を改善していくことが望まれます。
LTV を算出することで、自社が攻めるべき「LTV が高い顧客の特徴」や「自社サービスの健全性」の把握が可能となります。なぜ LTV が高いのか?どんな機能もしくは、購買/成功体験が寄与しているのか?を検証することで、サービスやプロダクトの改善にもつながります。
LTV を最大化させる方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせて参考にしてください。
あわせて読みたい:LTV を最大化させるには?メリットや成功のための方法を徹底解説
CAC(顧客獲得コスト)とは
CAC とは Customer Acquisition Cost の略で、ある一定期間において、顧客を1人獲得するために必要な総コストを示す数値です。
CAC には、以下のようなコストが含まれます。
- 広告宣伝費
- マーケティングコスト
- 営業コスト
- クリエイティブコスト
- 技術コスト
- 制作費
- 人件費
- 通信料
- 交通費
- 在庫管理コスト
CAC は新規顧客獲得における効率性を示す指標であり、その数値が低ければ低いほど、低コストで顧客を獲得できているということになります。
顧客獲得チャネルや自社のサービス、ターゲットごとの CAC を算出することで、どのようなマーケティング・営業活動が効率的に利益を生み出しているのかを把握することができ、自社の利益を生み出す戦略の策定にも有効に活用できます。
CAC(顧客獲得コスト)の計算方法
CAC は以下の計算式で求められます。
CAC(顧客獲得コスト)=顧客獲得にかかった総費用÷獲得顧客数
例えば、顧客獲得のために投じた総費用が50万円で、100人の顧客を獲得できた場合は「500,000÷100=5,000」の計算式によって、顧客1人あたりの獲得コストを5,000円と算出することができます。
LTV/CAC比 ユニットエコノミクスからわかること
次に、LTV/CAC比であるユニットエコノミクスによってわかることをまとめてチェックしていきましょう。
利益発生ポイントを予測できる
LTV/CAC から求めるユニットエコノミクスは、どの程度のコストでどれほどの収益を得られているかを示しており、どれくらいの期間で顧客獲得にかかった総コストを回収し、利益を生み出せるのかを判断する目安となります。
SaaS企業の LTV/CACの目安
SaaS 企業の LTV/CAC比率のベンチマークは3以上です。LTV/CAC比が少なくとも3以上であれば、顧客の獲得にかけたコストの回収を1年以内に達成できます。
LTV/CAC比率が3より大きくなればなるほど、損益分岐点を引き下げ、さらなるビジネスの成長や利益率アップを目指すことができます。一方、LTV より CAC が大きい状況、つまりユニットエコノミクスが1未満になると、新規顧客を獲得するほどに、赤字が拡大していくことになります。
LTV が CAC の3倍以上というのが基本的な健全性の目安となりますが、ビジネスモデルや業界/企業のステージによって異なるケースもあります。
例えば、アーリーステージや新規ローンチの段階では、市場のシェア獲得に向けて CAC が高くなる傾向にあります。もしくは、ロゴを総取りしていく焦土戦略を取るのであれば、その時点での LTV/CAC比率は低くなりますが、最終的な収益分配によりユニットエコノミクスを改善することも考えられます。
また、業界・製品やサービスによって LTV に重要な影響をもつ単価や解約率がさまざまです。
ユニットエコノミクスを指標とする際には、これらの点も押さえておきましょう。
将来のキャッシュフローと成長の予測
LTV/CAC比率を把握することで、顧客の増加に伴う将来のキャッシュフローと成長を予測することができます。将来のキャッシュフローがわかることで、予算から逆算した自社の戦略・財務計画も立てやすくなります。
つまり、LTV/CAC比率を四半期や年度ごとに継続して追っていくことをオススメします。自社が現時点で顧客獲得に集中すべきフェーズなのか、1顧客の獲得にかけられるコストの上限がいくらなのかといった戦略を見極めることもできるでしょう。
効果的な獲得手法と狙うべき顧客がわかる
LTV と CAC は顧客セグメントやサービスに基づくロイヤルティ/売上予測といった文脈以外にも使えます。費用対効果という文脈で見てみましょう。
LTV と CAC を SNS や広告、オフラインイベント等の獲得チャネルや、営業担当者、商材ごとに算出していくことで、どの獲得チャネルに注力するべきか、どの営業手法を組織で浸透させていくべきかが分かります。より有効な顧客獲得への戦略を構築できるようになります。
LTV/CAC 比率を改善する方法
続いて、LTV/CAC の比率を改善するための方法について解説します。
LTV の向上
LTV の向上は、LTV / CAC 比率を改善するために最も注力すべきポイントです。LTV(顧客生涯価値)は ARPU(顧客単価)/Churn rate(解約率)で求められます。
ARPU は当該月の MRR をその時点での顧客数で割って算出される数値であり、新規顧客を増やすよりも顧客単価の向上と解約率の低下が LTV 向上のキードライバーとなります。
ARPU を上げる
ARPU を上げるためには、「商品・サービスの単価を上げる」「上位の商品やサービス購入を促す」「関連する商品・サービスを合わせて購入してもらう」といった施策が挙げられます。
シンプルに捉えると、ユーザー平均単価の向上には特に、顧客満足度を上げていくことが大切です。なかでも、既存顧客の購入単価の向上は、新規顧客を獲得するのに比べて4倍、顧客の維持率向上するのに比べれば2倍の LTV 向上効果が期待できるとされます。
既存顧客の購入単価を向上するためには、顧客が実感する商品やサービスの価値(顧客価値)にもとづく価格戦略が必須であり、顧客単価の最適化が求められます。
Price Intelligently by paddle の調査1)によると、1%の価格最適化により、平均11.1%の利益増につながるということです。新規顧客の獲得と比べて顧客単価の最適化は収益への効果とより強い相関を表しており、価格戦略が重要であることがわかります。
下の図で示すように、顧客価値にもとづく価格戦略では、商材の価値に対して顧客が支払う意志のある最大限の金額を提示する Value Based Pricing と呼ばれる顧客の価値ベースでの価格戦略が有効です。
ただし、商品やサービスの価格最適化には時間も労力も必要であり、継続的な取り組みが求められます。顧客価値ベースに基づいた顧客の支払い意志は、顧客によっても製品によっても異なってくるからです。
やってしまいがちなのが、安易な割引をして顧客を獲得することです。割引による顧客獲得は短期的な収益の伸びにつながる可能性はあるものの、LTV は30%も低くなると推計されます。単価低下のほか、割引した顧客の解約率が、定価で利用している顧客の解約率の2倍以上になる傾向があるからです。
原因は価値を価格においているからです。本質的に顧客が意思決定に踏み切った理由が割引であるということは、上記の図の「Competitive Based Pricing」の波、つまり常に価格競争に晒されます。顧客がより安い価格の競合他社を見つけると、自社のサービスに価値を感じなくなってしまい、乗り換えてしまいます。
顧客価値にもとづいた価格戦略には、まず顧客を知ることが欠かせません。それは「顧客にとっての価値」、価格最適化の文脈においては、「サービスや製品に対して何を期待するのか」を定量化していくことです。そして、そのための定量的かつ定性的なデータを定常的にトラックします。
- 解約率
- MMR
- 利用データと LTV との相関性
- アンケート調査
- カスタマーサクセスへのヒアリング
- 需給データ
- 顧客レビュー
上記の項目は、顧客または製品ごとに考える必要があることも押さえておきましょう。
特に重要になるのが定量的な利用データと LTV との相関性を見出すことです。
つまり、「定量的に顧客がどういう状態であれば、顧客満足度が高いのか」を把握するということです。この成果指標の元となるデータはいつでも、誰でも確認・トラックできるようにしておきましょう。打った施策と顧客満足度の指標との因果関係や期待値とのギャップを特定するうえで欠かせません。
また、この価格最適化の戦略によるメリットは利益率の向上のみではありません。LTV が高い顧客の傾向を知りマーケティング戦略への転換、またはより競争力のある製品の開発にも活きてきます。
解約率を下げる
LTV 向上のためには、解約率の低下も重要な収益ドライバーになります。顧客ごとの実績または推定LTV と推定CAC と照らして、自社にとっての解約率のベンチマークを定めておくことをオススメします。
解約率を左右する要因を簡潔に表すと、ロイヤルティです。それも、製品への満足度だけではなく、顧客が自社とつながることで得られる体験や自社ブランドへの愛着、ファン度が大切です。
つまり、解約率の改善にて欠かせないのはカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上(参考:カスタマーエクスペリエンスを解剖 重要性と顧客価値を明らかにする)です。自社と顧客との接点で生じる顧客が購買時に得られる体験やオンボーディングでの手厚いサポート、最新の情報を提供してくれるなどの体験です。
いわゆる、カスタマーサクセス(※)による継続的な体験の提供が重要になってきます。
また、これらの CX 改善の体験には2つの要素があります。
- シームレスな体験
- 能動的な顧客の成功体験の醸成
製品の利用体験を良くするには、オンボーディング、カスタマーサポート、トレーニング担当部署が連携する必要がありますし、受け身ではなく、積極的に成功体験を作ることが重要です。
下の図の取り組みは一例ですが、解約率が低い既存顧客を特定し、どのような CX が低い解約率に影響を及ぼしているのかを考えていくと、逆算して CX改善の仮説を立てることができます。
ARPU と解約率、両者に共通する事項は「顧客ロイヤルティの向上」です。自社の製品のみではなく、顧客が他社には見いだせないブランド価値、自社と顧客との接点も含めた包括的な心理的ロイヤルティを高めていく姿勢が求められます。
CAC を抑える
LTV/CAC比(ユニットエコノミクス)を理想的な数値「3」以上にするためには、CAC を抑える方法もあります。
CAC を抑える前に LTV 向上に注力を
ただし、CAC を抑えるより前に、まずは LTV を上げることに注力するべきです。前提として、LTV が向上すれば LTV /CAC も理想値の3を超えやすくなります。
結果、LTV が高まれば、新規顧客獲得のためのマーケティング戦略の手段における選択肢も増え、事業全体にプラス要素として作用してくれます。ただ、営業キャッシュフローに問題があり、寡占市場で戦う場合には考慮すべき点ではあります。
ただ、少なくとも LTV の向上にも繋がる観点で CAC を抑えるのが効果的です。
ターゲット選定と効果的な獲得チャネルの把握
自社の商品・サービスにマッチした顧客ターゲットに対して、いかに効率的にアプローチを行えるか、つまりマーケティングコストとセールスコストを効率的に活用できるかがカギとなります。
そのためにも、ターゲットとする顧客を明確にしておくことが重要です。ターゲットを絞り混むことで、マーケティングコストとセールスコストを効率的に投資できます。
ターゲットを決める際には、その顧客が解決すべきニーズを解消した時に、自社のブランドや製品への顧客ロイヤルティが高まると言えるかと自問することをオススメします。また、ターゲティングには自社の商品やサービスがどのような顧客ニーズに適合するのかを把握する必要があり、セグメンテーション(市場細分化)が欠かせません。
「セグメンテーション」を通じて自社にあったターゲットを認識できれば、集中的にリソースを投下することが可能となり、最適なコスト配分でより多くの顧客を獲得することにもつながります。
複数セグメントからより優先的なターゲットを選定する際には、各セグメントごとに以下の要素を省みることをオススメします。
- 各セグメントの課題の傾向
- ニーズの成長率/普遍性/ニーズの数
- セグメントの推定LTV
- セグメントの推定CAC
- 獲得チャネルごとのLTV/CAC/リードタイム
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▼ Magic Moment Playbook 「営業改革を実行するための主要機能」
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《引用文献》
1)Price Intelligently、”Pricing Strategy Guide: Unlock Growth with These 3 Strategies”、Price Intelligently by paddle、(2003/12/13)、Pricing Strategy Guide: Unlock Growth with These 3 Strategies、(参照2023/04/03)。
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