チャーンレートがサブスクリプションビジネスの LTV に与えるインパクト
- チャーンレートとはサービスにおける解約率を表す指標であり、2%から1%に下がるだけで、その企業の LTV は2倍になるほどインパクトがある
- 新規顧客の獲得は平均して既存顧客の維持の5~6倍のコストがかかるため、新規顧客の獲得以上に、既存顧客の維持が重要である
- ビジネスの成長に課題を抱えている企業では、まずチャーンレートの改善に取り組むことが成果に繋がる
売上が積み重なっていくサブスクリプションビジネスにおいては、チャーンレートの増減が大きくビジネス、とりわけ LTV に影響を与えます。
海外ではセールスフォースや Netflix(ネットフリックス)などはじめ、SaaS(サブスク)企業がチャーンレートを開示することが当たり前になっています。国内でも、マネーフォワードや Sansan、カオナビやラクスなど上場企業がチャーンレートを開示しており、スタートアップを中心にチャーンレートの注目度は高まっています。
本記事では、そのチャーンレートの変化が与える影響を可視化して、どのくらいビジネスにとってインパクトがあるのか解説していきます。目安となるベンチマークについても紹介しておりますので、ぜひお読みいただきご活用ください。
目次
チャーンレートとは?
チャーンレートは、サービスにおける解約率を表す指標です。一般的なチャーンレートの定義は、収益ベースで計算するレベニューチャーンレートと、ユーザー数で計算するカスタマーチャーンレートの2種類に分類されます。
カスタマーチャーンレートは
カスタマーチャーンレート=月間の合計解約ユーザー数 ÷月初のユーザー数
の計算式で求められ、一定期間に解約したユーザーや、有料会員から無料会員にダウングレードしたユーザーの割合を示しています。
レベニューチャーンレートは
レベニューチャーンレート = (サービス単価×一定期間で解約したユーザー数/一定期間の総収益)
で計算されます。複数の価格帯でサービスを提供している企業では、カスタマーチャーンレートとそれが収益に与える影響が異なってくるので、レベニューチャーンレートを用います。
チャーンレートはなぜ重要なのか
サブスクリプションビジネスにおいてチャーンレートが重要であるということは、もはや周知の事実です。しかし中には、顧客のチャーンレートが高いなら新規顧客をその分多く獲得すればいい、と考える方もいるかもしれません。では、いったいなぜチャーンレートが重要なのでしょうか。
一つの目の理由は、新規顧客の獲得には平均して、既存顧客を維持する5~6倍のコストがかかるということです。新規顧客は獲得コストが高いにもかかわらず利益率が低いので、新規顧客の獲得以上に既存顧客の維持が重要です。
もう一つの大きな理由が、チャーンレートの増減が顧客の LTV に甚大な影響を与え、その結果、事業成長に大きな差が出るということです。
では、実際にどのくらいビジネスに影響を及ぼすのでしょうか?
チャーンレートが LTV に与えるインパクト
サブスクリプションビジネスでは、一回限りの購買ではなく関係が連続して続きます。そのため1人の顧客がもたらす価値を示す LTV(Life Time Value)と言われる指標が用いられます。
LTV は、継続期間や顧客単価などが影響します。具体的には、以下の計算方法で算出できます。
LTV=顧客一人当たりの平均MRR/チャーンレート
顧客一人あたりの平均 MRR が10万円の場合、この LTV とチャーンレートの関係をグラフで表すと以下のようになります。縦軸が LTV で、横軸が0%から20%までの月次チャーンレートを示しています。
グラフからもわかるように、チャーンレートの増加に伴って LTV は急激に低下します。LTV はチャーンレートと反比例の関係にあり、チャーンレートが2%から1%に下がるだけで、その企業の LTV は2倍になるのです。
LTV を改善するためには、顧客ライフサイクルをできる限り長く保つ必要があります。
チャーンレートが成長限界を決める
次に、チャーンレートと事業の成長性についてみてみます。
サブスクリプション企業で毎月200万の MRR を積み上げていくと仮定します。この企業における MRR とチャーンレートの関係をグラフで表すと、以下のようになります。縦軸が MRR で横軸が経過年月を示しています。曲線は上から月次チャーンレート5%、10%、15%、20%、25%の順になっています。
グラフからわかるように、月次チャーンレートが15%以上の企業では、18ヶ月目以降は成長が頭打ちになってしまっています。
36ヶ月(3年間)以降も成長を続けていけるのは、月次チャーンレートが5%の企業ということもわかります。
チャーンレートとは解約の割合を示しています。したがって、同率のチャーンレートであっても、顧客数が増えれば増えるほど、その負の影響が大きくなります。チャーンによる収益の減少と新規獲得のMRRが一致した時点で、企業の成長が止まってしまいます。
実際には月次獲得 MRR が一定という企業は少ないですが、MRR の成長率を上昇させ続けるのは難しいので、多少の誤差はあるものの今回のグラフと同じような曲線を描くと想定されます。
ネガティブチャーンで成長を加速させる
チャーンによる MRR の減少を既存顧客の MRR の上昇が上回る場合、レベニューチャーンレートはマイナスになります。
このことをネガティブチャーンと呼びます。
チャーンが収益にとって大きな負の影響を与えるのと同じく、ネガティブチャーンはサブスクリプションビジネスの収益向上に大きく起因します。
前項と同じく、毎月200万の MRR を積み上げていくサブスクリプションビジネスを仮定し、月次レベニューチャーンレートが10%、5%、-2.5%(ネガティブチャーン)のケースでグラフを作成します。
グラフからもその差は一目瞭然です。
チャーンレートが5%から-2.5%に変化すると、MRR の積み上げは24ヶ月目で2倍に、そして、36ヶ月目では3倍以上の差が開きます。
ProfitWell によると、一般的な SaaS 企業の月次チャーンレートの中央値は3%〜9%とされていますが、そのベンチマークに満足せず、飛躍的な事業成長のためにネガティブチャーンの達成を目標としましょう。
チャーンが起きてしまう要因
ここまでの解説でチャーンレートの重要性を理解できたかと思います。では、実際になぜチャーンが発生してしまうのでしょうか。
チャーンが起きてしまう4つの要因は、大きく分けると4つに分類されます。
1. サービス内容に不満がある
機能面やコンテンツ・製品を使ってみた結果に不満がある場合、サービスの利用頻度が下がり、結果として解約に繋がってしまいます。
2. 価格に不満がある
サービス内容とも関連しますが、多くの顧客が ROI(費用対効果)を踏まえてサービスの満足度を判断します。そのため効果に対して高いと感じた瞬間、ユーザーがサービスを解約する可能性が高いです。
3. 競合サービスへ乗り換える
サービスの利用率が低下したり、価格に不満を感じた場合、競合他社のサービスに乗り換えるために解約する企業も多いです。
4. その他
業態の変化や業績不振などサービスが直接的な原因ではないものの、解約するケースもあります。
一定致し方ない側面もありますが、事前に兆候を把握することで、その後対策することも可能です。
チャーンを防ぐためには、顧客体験を最善化することが重要です。ユーザーの利用状況を把握した上で適時フォローすることをはじめ、顧客の成功に導けるようサポートすることが大切です。
こちらの資料に顧客体験を最善化するためのカスタマーサクセスの概要や、具体的なポイントについて記載していますので、ぜひご活用ください。
まとめ
これまでのグラフが示したように、チャーンレートの増減はサブスクリプションビジネスにとって大きな影響を与えます。ビジネスの成長に課題を抱えている企業では、営業担当者を増やしたり、マーケティング予算を投下するのではなく、まずチャーンレートの改善に取り組みましょう。
またチャーンレート以外にも、サブスクリプションビジネスの売上を伸ばすために分析すべき指標は多数存在します。
まずは概要を知りたい方や、他社事例を知りたい方は、ぜひこちらの記事を参考にしてみてください。
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