顧客エンゲージメントとは? 注目のポイントやその高め方を解説

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要約SUMMARY
  • 市場の成熟化により、顧客との長期的な関係性を築くビジネスモデルの導入が進んでおり、既存顧客との関係性が重要になってきている
  • 長期的な関係性が重要となるビジネスモデルにおいて、顧客エンゲージメントの概念が注目されている
  • 従来の獲得型営業組織と顧客エンゲージメント型組織では、解約の存在や収益源が異なることから、多くの点で組織のトランスフォーメーションが必要

市場の成熟化やコロナによって加速したデジタル化の影響により、顧客との長期的な関係性を築くビジネスモデルの導入が進んでおり、既存顧客との長期的な関係性(顧客エンゲージメント)が以前よりも重要になっています。

メディアでも聞くようになった顧客エンゲージメントとは、どのような概念なのでしょうか。本記事では、顧客との長期的な関係性が重要となる中で注目されつつある顧客エンゲージメントの概念について解説します。

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顧客エンゲージメントとは

「顧客エンゲージメント」という言葉の一般的な定義はまだ定まっていません。しかし、「顧客主義」「カスタマーファースト」「顧客エンゲージメント」など顧客を重視する言葉は広く使われており、多くの成功企業が注目している理念です。

図1:顧客エンゲージメントとは (Magic Moment 作成)

各企業によって「顧客エンゲージメント」の定義の表現に違いはありますが、一貫して顧客との「深い関係性」「友好的なつながり」「親密さ」といった意味合いで使われてます。

弊社 Magic Moment でも、顧客エンゲージメントを「顧客と企業との関係値の総量」と定義しています。

顧客ロイヤリティ、顧客満足度との違い

顧客エンゲージメントと似た概念として「顧客ロイヤルティ」や「顧客満足度」があります。「顧客ロイヤルティ」は、顧客の企業に対する「愛着」や「信頼」といった態度の意味合いで使われている概念です。顧客がどれくらい企業の商品やサービスに愛着を感じているかといった態度を表し、顧客からの視点により焦点を当てています。

また、「顧客満足度」は、顧客が企業の商品やサービスにどれくらい満足しているかといった評価を表しているものです。顧客自身が商品やサービスに対して喜ばしいと感じる基準を満たした場合、満足度が高いと判断するため、企業と顧客の継続的な関係性を測定しません。

一方で、顧客エンゲージメントは、「顧客と企業との関係値の総量」と定義されているように、企業と顧客の関係性について焦点を当てています。つまり、顧客エンゲージメントは、より企業と顧客の双方向の継続的な関係性に着目した概念です。

詳しくは下記資料でも詳しく説明しています。

顧客エンゲージメントが重要とされる理由

市場の成熟

日本においては、少子高齢化により今後人口がさらに減少する見込みであることから、多くの市場がすでに成熟し、市場自体が大きく伸びないとされています。

そのため多くの営業組織は、従来のように新規獲得を重視して今期の売上を最大化することをゴールとする考え方から、既存顧客と長期的な関係性を構築し、将来的な売上も見据えた LTV を最大化することをゴールとする考え方にシフトすることが求められています。

サブスクビジネスの台頭

また、サブスクリプションビジネスの台頭も顧客エンゲージメントが重視される背景にあります。

サブスクリプションビジネスでは、顧客は利用期間に応じて料金を支払うことで、必要に応じてサービスを利用できます。そのため企業にとっては、顧客の解約を抑えながらアップセル・クロスセルを行うことが売上を最大化するための鍵となります。

Salesforceの調査1)によると、企業間取引の顧客74%と消費者63%が、より素晴らしい顧客体験のためであれば、より多くのコストを支払うと答えています。顧客エンゲージメントを高めることができれば、顧客のサービス解約が減るだけでなく、より良いサービスを求めて上位プランへのアップセル・クロスセルが見込まれまると言えるでしょう。

「顧客エンゲージメント」はどのビジネスモデルにも必要な概念

サブスクリプションの他にも、SaaS・リカーリング・リース・レンタルなど、多くのビジネスモデルにとって、顧客との継続的な関係は非常に重要です。

例えば販売後も顧客から継続的に収益をあげるリカーリングでは、プリンタなどが挙げられますが、本体自体は安く、消耗品(インク)を適宜購入してもらうことで収益を継続的に得ることができます。また、リースやレンタルでも繰り返し利用されることで安定的な収益を得られるため、顧客との継続的な関係は、収益を左右してくると言っても過言ではありません。

顧客に継続的に利用してもらうことが収益性の根源となるビジネスにおいて、企業は顧客の成功を目指して、カスタマージャーニーを組織全体で理解し、各組織各フェーズでどういった合意項目を積み重ねることが重要かを考えることが重要になってくるのです。

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顧客エンゲージメントを高めるメリット

顧客エンゲージメントの概念と重要とされるようになった背景について、詳しく解説してきました。そして、顧客エンゲージメントを高めることによる具体的なメリットは 5 つあります。

長期的収益の最大化

目標とするのは今期の売上ではなく、将来的な売上も含めた顧客生涯価値を最大化することなので、目先の売上よりもLTVを重視できます。

リソース配分が効率的にできる

LTV の望めない案件に対しては過度な価格交渉などを駆使して無理に獲得するのではなく、早期に判断して他の案件に注力できます。

顧客も気づけない価値提案ができる

理想的な営業姿勢は顧客の要望に沿った提案をすることではなく、顧客も気づいていないような価値を提案できます。

収益増加に貢献している営業メンバーへの正しい評価

評価されるのは新規受注が最も多い営業担当者ではなく、継続する案件やリピート・紹介をしてもらえるような営業担当者になれます。

売上拡大が見込める

上記が実践できている営業組織は、アップセルやクロスセルなど既存顧客からの売り上げ拡大が多く、経営としての収益性も高いです。

顧客エンゲージメント型組織の特徴

顧客エンゲージメントを高めることによるメリットを獲得するためには、顧客エンゲージメント型組織への移行が必要不可欠です。顧客エンゲージメントを重視する顧客エンゲージメント型組織と、獲得を重視する獲得型組織で比較してみると、両者の異なる価値観について知ることができます。

図2:エンゲージメント型営業組織の特徴(Magic Moment 作成)

ビジネスのゴール

顧客獲得型の営業組織では新規獲得を重視し、今期の売上を最大化することをゴールとしているのに対し、顧客エンゲージメント型組織では、将来的な売上も見据えた LTV を最大化することをゴールとしています。

手段

顧客獲得型の営業組織では、新規案件の獲得を手段とした単発的な考え方であるのに対し、エンゲージメント型の営業組織では、顧客を知り関係性を構築する、継続的な価値観が重視されます。

案件判断

案件を受注する際には、獲得型営業組織の場合、価格交渉などの手段を駆使して受注につなげることを重視するのに対して、エンゲージメント型の営業組織では、LTV を望めない案件は受注しません。

営業姿勢

営業の姿勢としては、獲得型営業組織の場合、顧客の要望に応えるように価値を提案するのに対して、エンゲージメント型営業組織では、顧客も気づいていないような価値を提案することを重視しています。

評価される営業担当者・トップセールス

獲得型の営業組織では、新規受注が最も多い営業担当者が評価されるのに対して、エンゲージメント型の営業組織では継続案件が最も多く、リピートや紹介での受注に繋げられる営業担当者が評価されます。

顧客エンゲージメント型組織へのトランスフォーメーション

従来の獲得型営業組織と顧客エンゲージメント型組織では、解約の存在や収益源が異なることから、以下の点でのトランスフォーメーションが必要です。

  • オペレーション構築:獲得率の高いオペレーションの追求から、解約率の低いオペレーションの追求へ
  • KPI:受注金額から LTV へ
  • インセンティブ設計:獲得重視のインセンティブ設計から、エンゲージメント重視のインセンティブ設計へ
  • ツールの活用:部門内の業務効率化から、部門間の情報連携へ
  • 人材育成:獲得スキルの重視から、エンゲージメントスキルの重視へ
  • データベース設計:獲得までのデータを参照できる設計から、獲得移行のデータも一元的に参照できる設計へ
図3:獲得型からエンゲージメント型へのシフト(Magic Moment 作成)

このような顧客エンゲージメント型組織へのトランスフォーメーションにより、先ほど述べたようなメリットを享受することができます。

顧客エンゲージメントを高める方法

顧客エンゲージメントを強化するためには下記の3つのプロセスがあります。これらはすべてツールの活用が前提となっております。

顧客データの収集・統合

最初のプロセスでは、顧客の行動・感情・好みを把握するために、さまざまなデータを収集することが大切です。また、それぞれ別のデータベースに保存するのではなく、ひとつのデータベースに統合することで、思わぬ因果関係や相関関係に気が付くかもしれません。

顧客データの可視化・分析

次に、データの可視化・分析です。手間をかけてデータを蓄積したとしても、データを可視化できなければ価値がありません。ダッシュボードや BI でデータを見ることができるようにしましょう。

施策の落とし込み・自動化

最後のプロセスは、施策への落とし込み・自動化です。データで顧客の行動やニーズを把握することができたら、どのようにフォローすれば顧客エンゲージメントを深めることができるのか、具体的な施策に落とし込むことが大切です。また近年は、顧客の行動をトリガーにアプローチを自動化するツールも出てきているため、積極的に活用することも重要です。

国内での顧客エンゲージメントの事例

国内の事例として、株式会社 EXIDEA の取り組みを紹介します。

株式会社 EXIDEA は、13年に渡る1,000サイト以上の SEO コンサルティングと数百のWebサイト運営経験に基づいて、SEO ライティングツール『EmmaTools™』を開発・提供しています。

課題

同社では新規事業として SaaS ビジネスを立ち上げたものの、社内に事業戦略・組織づくりのノウハウが不足しており、何から手をつけたらいいのかが不明確で、事業面と組織面において以下のような課題を抱えていました。

  • どこにリソースを投下すれば売上を最大化できるか把握したい
  • どんな顧客を獲得すべきなのかを明らかにしたい
  • サブスクリプションビジネス特有の考え方を組織に浸透させたい

1つ目の課題は、狙うべき顧客がわからず、顧客獲得コストをどれだけかけていいか分からなかったことです。

当時から MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を開発し、顧客からフィードバックをもらいながら、どの属性の顧客にサービスがマッチするのか、顧客は生涯どれだけのお金を払ってくれるのかを推定していましたが、感覚的な推定しかできていませんでした。

2つ目の課題は、サブスクリプションビジネス特有の考え方が組織に浸透していなかったことです。立ち上げ当初、 EmmaTools™ には7名のメンバーが関わっていましたが、BtoB SaaS の経験があるメンバーはいませんでした。

サブスクリプションの考え方が浸透していないことから、セールスが中長期的な売上よりも短期的な売上を意識してしまい、サービスにマッチしない顧客ばかりを獲得してしまっていました。その結果、カスタマーサクセス担当者が対応に追われ、疲弊してしまうという事態が起きました。

解決策

同社では以下の3つの取り組みを通じて、売上拡大を目指しました。

  • 定量的に事業状態を可視化することができる基盤づくり
  • マーケティング・セールス・カスタマーサクセスの組織体制づくり
  • サブスクリプションビジネスに関する社内勉強会を実施

1つ目に、SaaS の主要指標の可視化に取り組みました。

感覚値で経営し続けるのではなく、同社にとって鍵となる指標は何かを明らかにして、改善・検証し続けられる仕組みを構築しました。

まずはユニットエコノミクス・CAC・チャーンレートをはじめ、SaaS の経営に必要な指標を管理することから取り組みました。自社でそれらの指標を可視化するのはとても大変で、正しいデータを集めて、正しく計算できるよう、エンジニアリソースも必要になります。

2つ目に、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスの再編成に取り組みました。

まず「組織のレベルチェック診断」などを行って、部門の成熟度を評価しました。例えばカスタマーサクセス組織のレベルチェック診断では、カスタマーサクセスの概念をどれだけ理解できているか、ビジネスに必要な指標やツールを導入・設定することができているか、指標の改善に効果的な施策を打つことができているかなど、網羅的に組織を評価できました。

それから、

  • マーケティングオートメーションのシナリオ設計
  • 架電のタイミングや KPI の設計
  • 商談のスクリプトの作成
  • オンボーディングフローの設計 など

に取り組みました。

3つ目に取り組んだのは、サブスクリプションビジネスに対する社内文化の醸成です。

各担当者が部分最適となり、「自分の KPI のためだけに仕事をする」という状態を解消するためには、経営視点でビジネスを捉える必要があります。

そこで、社内のメンバー向けに

  • サブスクリプションビジネスとは何か
  • どのような指標があり、どんな意味を持っているか
  • EmmaTools™ は、どのようなフェーズのビジネスなのか
  • 事業の成長性は、どれだけ優れているのか
  • 今後事業が直面する大きな課題は何か など

を学ぶ勉強会を実施しました。その結果、メンバーの視点がとても高まりました。

効果

上記の取り組みの結果、以下の成長を実現しました。

  • 感覚値だった主要 SaaS 指標を定量的に把握
  • ビジネスや顧客の理解が深まり、月次平均成長率15%を達成
  • 事業への取り組みが変わったことによりメンバーのモチベーションが高まった

メンバーひとりひとりが事業視点を持ち、本質な取り組みに集中できるようになったことで、従来よりも大きな成果が出るようになりました。結果として、MRR の月次平均成長率15%を達成できました。

参考:月次平均成長率15%を達成した、データ・ドリブンなSaaS経営の裏側とは

まとめ

  • 市場の成熟化により、顧客との長期的な関係性を築くビジネスモデルの導入が進んでおり、既存顧客との関係性が重要になってきている。
  • 長期的な関係性が重要となるビジネスモデルにおいて、顧客エンゲージメントの概念が注目されている。
  • 従来の獲得型営業組織と顧客エンゲージメント型組織では、解約の存在や収益源が異なることから、多くの点での組織のトランスフォーメーションが必要。

市場のトレンドの変化だけでなく、サービスそのものも常に変化していくサブスクリプションビジネスでは、よりリアルな「顧客の行動」を知った上で顧客の課題を読み取って対応し、より良い顧客体験を提供していくことが企業にも求められます。

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《引用文献》

1)Salesforce.”より良い「顧客体験」をつくるには?”.Salesforce.2019-10.https://www.salesforce.com/jp/blog/2019/10/how-to-create-a-customer-centric-experience.html.(参照2023-05-23)