AIに駆逐されない営業パーソンを育てるには

AIの発展に従って、営業という職種は絶滅すると言われています。実際にオックスフォード大学が2014年に行った調査では、「訪問型営業は近いうちに消える」とまで報告されています。そうした時代にも確実に成果を出し続ける、AIに取って代わられない営業スタイルが存在します。それは、人間力を打ち出した営業手法です。本記事では、次世代型営業手法について紹介していきます。

AIが得意としている仕事とは?

営業には多くの仕事が存在していますが、とりわけAIが得意としているものはどのような仕事なのでしょうか? 主に3つに業務が得意であることがわかりました。

1. お客様の行動傾向の分析

膨大な見込み客のExcelデータ等から、人力で行動パターンや興味関心を分析することはとても大変です。しかし、AIは膨大なデータを一気に読み取り、見込み顧客ひとりひとりの興味を分析・コンテンツを自動送信することができます。これにより、最適な情報を、最適なタイミングでお客様に届けることが可能になります。

2. 営業パーソンの行動分析

データ分析の対象はお客様だけではありません。営業パーソンの成果の差を生み出す「スキル」や「人柄」といったデータを分析・可視化することができます。これまでは優秀な営業担当に同行することで感覚的に学ぶことしかできたかった「営業スタイル」を、顧客訪問頻度やメールの文面まで分析・可視化することにより、どのような行動をとれば成果に結びつくのかを明らかにできるのです。さらに、成果の悪い営業パーソンに対しては、AIがその原因となる行動を分析し、アドバイスも行います。こうすることで、営業パーソンごとのスキルの差を埋め、営業チーム全体の効率性の底上げができます。

3. 事務作業

実に営業活動の7割以上は事務作業であり、直接的に利益を生み出すものではありません。この事務作業は、名刺データの入力や経費精算、また社内の稟議書や議事録の作成などがあります。本来営業は、お客様が抱える課題を定義し、それを解決することがもっとも本質的な業務です。そういった活動に時間を費やすために、単純作業を得意とするAIに事務作業などを任せるケースが増えている現状があります。

営業組織の生産性を高めることは、収益拡大と競争上の優位性獲得において重要であり、多くの営業組織の課題になっています。特に AI は、今後営業組織に益々浸透していくことが見込まれており、営業組織はこのような変化に適応していく必要があります。

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営業スタイルの歴史と誤解

では、結果を出す営業とそうでない営業の差は一体どのような点にあるのでしょうか。まずは日本の営業スタイルの変遷を歴史とともに振り返ってみることから始めましょう。

戦後まもなくから現在まで、営業手法は3つの変遷を遂げてきました。では、めまぐるしく変わりゆくこれからの時代における営業手法は、一体どのようなものなのでしょうか。

まず、戦後間も無くの、モノがない時代です。マーケットには、闇市が横行し、粗悪品が出回っていました。この時、マーケットに受け止められるために必要なことは、「良いものを作る」ことでした。つまり、営業にとっては、お客さんに商品を良いものだと説明しきれれば、それでお客さまの心を動かすことができました。「商品力」ありきの時代になります。

次に訪れるのが、経済成長期。続々と機能性に溢れた商品が世の中に投入される中で、営業のスタイルは大きく変わりました。単に「良いもの」というだけでは売れなくなり、「個人の営業力」がものをいう時代になりました。つまり、「誰が」売るかです。営業パーソン個人が一人の人間としてお客様にいかに気に入られるかが非常に大事になりました。このために営業パーソンは潤沢な資金を元に営業経費をジャブジャブと使いました。

しかしこの営業手法が通用しなくなる時代がやってきます。バブルの崩壊です。お金が使えなくなり、個人力営業は姿を消していきます。ここで登場したのが、ソリューション営業(課題解決の提案型営業)です。お客様が、今何に困っているのかを正確に聞き出して、その解決策を適切に提案するものです。例えば、複写機などOA機器のセールスなら、そのオフィスの利用形態に最適で業務の効率化も図れる新機器やシステムを提案することで受注に結びつけました。この営業スタイルは2000年前後から始まり、今日まで続いています。

さて、問題は、今何が起きているかです。

現代は圧倒的買い手優位の時代

現在営業パーソンの多くが直面しているのは、次のような事態でしょう。従来通りお客様の課題を把握して適切な解決策を提案しているにも関わらず、契約が取れないのです。その原因は、現代は、売り手が圧倒的に不利な時代だからです。多数の競合他社が同じような営業をしており、売る側はコンペ状態に陥っています。マーケット全般を見回しても、高性能品が驚くほど安価で売られ、しかも次々に新しい商品が現れ、各製品は短期間で価格低下を強いられています。そんな厳しい環境から抜け出すために必要なのが、次世代型の営業スタイル、「結果を残す営業」なのです。

多くの営業担当者が抱える4つの誤解

営業のステージを、お客様が抱える課題の状況に合わせて、川上、川中、川下と3種類に分類しましょう。

成約に至るまでにお客様は3つのステップを踏んで意思決定をしています。曖昧な課題感が具体的になり、最後には明確な購買意思になるのです。そのため営業担当者は、そのお客様のステージに応じて話題にすべき事柄があります。

まず川上営業とは、お客様が漠然と抱える、または潜在的に抱える課題感に対しての営業です。具体的には、「我が社にもそろそろコスト削減しないとまずいかな」といったかなり漠然とした課題感です。次に川中営業とは、より具体的な課題感を持った段階のお客様へのアプローチです。具体的には「コスト削減には手っ取り早く電気代削減が良い気がする」など思案している段階です。最後に、川下営業は、お客様が購買欲まで備わっている状態への営業です。例えば、「電気代を節約するために、社内の電気製品の入れ替えがきたら、電気代が少なくて済むエコ型の製品を買おう」や「A製品とB製品の条件の良い方にしよう」のような完全に条件比較の段階に入った顧客に対するアプローチです。

1.見込み客を探すことが近道ではない

「見込み客を探す」とは、営業のステージにおける川中から川下の状況にあるお客様を探すことにあたります。つまり、課題が明確に意識された状態のお客様への営業です。現在の営業スタイルの多くがこの川下営業です。この営業スタイルでは、お客様の条件にジャストミートする提案や見積もりを提案できれば、すぐに購入を決定してくれます。しかし、この営業スタイルの落とし穴は、条件競争に飲み込まれることです。上述したように現代は「買い手側優位の時代」です。川中、川下営業は確実に他社との条件競争に飲み込まれます。

2.自社商品やサービスの特徴を伝えることが大事ではない

商談の場で営業パーソンは当然、自社商品やサービスの特徴、素晴らしさを強調します。モノを売り込む以上、それが必要不可欠なのはいつの世も変わりません。しかし、いまやそれだけでは受注を勝ち取れない時代となっています。「買い手側が圧倒的に強い」今の時代、狙うべきは、見込み客以外のまだ課題が明確になっていない「川上のお客様」です。そうしたお客様に語るべきことは自社商品やサービスの特徴ではありません。では、何を語り、何を問うべきか。それは、顧客の経営理念や事業ビジョンについてです。

3.自社実績の豊富さが大事ではない

自社商品の売り込みに必死の営業パーソンが例外なく説明したがることがあります。それは、業界における我が社の優位性や、得ている定評の高さ、どのくらい多くの顧客に、製品が利用され喜ばれているかということです。しかし、実はその種の話は、お客様にほとんど興味を持ってもらえません。お客様が知りたいのは、実績のうち、自社のケースと共通する導入事例です。
これまでどんな顧客を相手にどんな事業計画を実現するお手伝いをしてきたか、お客様と共通点のあるケースの実績を語ることです。

4.顧客の困っていることを聞き出せば刺さる提案ができる、わけではない

自社商品・サービスを購入してもらうために、最終的には、お客様のお困りごとを聞き出し、その課題を解決する商品・サービスを提案する必要があります。しかし、それだけでは他社と差別化ができません。他社も同様の営業スタイルを行なっているからです。だからこそ、自社の提案をオンリーワンにする、他社とは異なるアプローチが必要なのです。

人間が取り組むべき本質的な営業とは

一言で言えば、お客様のビジョンの実現に向けた提案をする営業です。
これは、従来の、目先の課題を解決することに特化した「ソリューション営業」とは異なり、お客様の将来を見据えた、価値観に寄り添う営業です。

たった3ヶ月で従来の70倍もの導入数を達成した提案

ここでお客様のビジョンに寄り添うことで、圧倒的な成果を達成した営業パーソンの一例をご紹介しましょう。ある大手飲料メーカーの営業パーソンA氏が、自社商品搭載の自動販売機を、たった3ヶ月で、ドラッグストア140店舗に設置することに成功した話です。

A氏が目標に掲げたのは、エリア内年間200台の導入。これは、普通に営業していたら絶対に不可能だろうというほどの厳しいハードルです。そこでA氏は、担当するエリア内で200店舗を展開するドラッグストアをターゲットに絞り、営業を開始しました。

はじめにA氏は「ソリューション営業」を実施しました。
A氏は汗水垂らして、1店舗ずつ訪問し、空きスペースの位置、店頭前のベンチに座っている人をつぶさに調査し、やっとの思いで、本部に次のような提案をします。
「〇〇町の店舗では、暑い日にお年寄りが店の前でベンチを休んでいましたが、滞在時間は長くても10分ほど。そこに自動販売機が一台あれば、店頭スペースが憩いの場になり、さらなる購買を生むことができるのでは?」

その結果、設置に成功したのは半年でたったの2台。
このままでは目標を達成できない。
そこでA氏はやり方を変えたのです。
この営業スタイルこそが、人間にしかできない「AIに打ち勝つ営業」です。

理念やビジョンを提案に結びつける

A氏はそのドラッグストアに関する情報をとにかく集めることにしたのです。その中で着目したのが、同社の社長さんが登場する雑誌記事。社長さんが語っていたのは「弱者の味方でありたい」というドラッグストア経営に乗り出した動機とも繋がる話でした。ホームページをいくら検索しても出てこなかった話です。

その社長さんは幼少期、母子家庭で育ち、母親が病弱で十分に働けず経済的にも困窮。子どもながらも薬局に頭を下げて薬をツケで売ってほしいと頼んだこともあったとか。しかし周りは誰も助けてくれず、弱者に対する社会の冷たさを感じ、こんな世の中を変えたい、と自分で弱者の味方である企業を作ろうと考えたのです。現に、事業に成功した今、盲導犬協会を支援していました。

そしてもう一度Aさんが社長さんに伝えたことは3つ。
①ドラッグストアの経営理念に大変感銘を受けたこと
②自社の理念やビジョン、つまり、大手メーカの社員として全国で仕事をしているが、1人ひとりの営業パーソンは地域と地域の企業に貢献したいという思いで働いていること
その上で最後に一言。
③御社のビジョンの実現に向けて、弊社からご提案をさせていただくことは可能ですか、という一点。

結論から言うと、そのあとの3ヶ月間の営業活動で、140台の設置が決定。提案を理念やビジョンと紐付けた結果です。
具体的には、自動販売機の前のパネルに「この自動販売機の売り上げの一部は盲導犬協会に寄付されます。昨年度は〇〇円寄付されました」と言うメッセージを付したのです。自動販売機を社会貢献活動アピールのツールとして使いましょうという提案。
だからこそ、お客様の胸に深く刺さる提案となることができたのです。

まとめ

AIに代替されない次世代型の営業スタイルとは、人間力を打ち出した営業です。お客様のビジョン実現に向かって併走できるような営業パーソンが、お客様から選ばれるのです。そのために目先のお客様の課題に対する提案ではなく、より上流の、お客様の経営理念に目を向けることが大切でしょう。

参考文献・URL

Accel(2018)『マーケティングオートメーション導入で大成功した企業の共通点』
https://www.magicmoment.jp/blog/marketing%EF%BC%BFautomation%EF%BC%BFsuccess/
株式会社プレジデント社、高橋研著(2018)『AIに駆逐されない営業力実践!インサイトセールス』
Dynamics365チャンネル(2018)『AIを活用した営業支援はここまでできる』https://www.cloudtimes.jp/dynamics365/blog/ai-for-sales-support.html
Urumo(2018)『【営業の今昔】AI化で営業の仕事はどう変わる?』
https://www.innovation.co.jp/urumo/sales_ai/
DigitalMarketingblog(2018)『【MAとは?】マーケティングオートメーションとは何か分かりやすく説明します!』
https://digitalidentity.co.jp/blog/marketing/about-ma.html