【NTTコミュニケーションズ 共催】セールス イネーブルメントへの挑戦
- セールス・イネーブルメントとはセールスDXをベースにした、成果直結を重視する一連の組織能力向上施策のこと
- 新しいデータマートを作って分析するためには、営業関連ではないものまで含めて、全てのデータを一箇所に蓄積することが必要
- KPI の設定としてセールス・イネーブルメントによって最終的にどれくらい売上に貢献しているかを説明することは難しい、そのためマクロだけではなくミクロでも成果を見ていくことが重要である
Magic Moment では、2023年6月28日に、営業組織に関わる役職者を対象としたトークセッション「セールス・イネーブルメントへの挑戦」を開催しました。『セールス・イネーブルメントの教科書』の著者である NTTコミュニケーションズ 徳田泰幸氏をお招きし、Magic Moment 代表取締役 CEO 村尾祐弥が対談を行いました。
当イベントは Magic Moment 本社オフィスにて開催し、オフライン23名・オンライン127名と、大手企業の経営層を含む総勢150名の方々にご参加いただきました。
徳田氏は、2017年から NTTコミュニケーションズでセールスイネーブルメントを推進し、データ活用による組織の営業改善や人材育成に向けた取り組みを推進してきました。村尾とはこれまでも週刊東洋経済で対談を行い、著書『セールス・イネーブルメントの教科書』では、蓄積したデータを活用して自動的に判断し、次の行動を示す有用なシステムとして Magic Moment Playbook を取り上げて頂いています。
トークセッションでは、3,500名と日本最大規模の営業組織においてセールス・イネーブルメントを推進してきた徳田氏が「しくじり感満載」と語る実体験をベースに、組織横断でのデータ活用・営業における生成系 AI 活用など、「データ活用による営業組織の変革」について議論が行われました。本稿ではイベントの内容を一部抜粋し、ご紹介いたします。
Magic Moment では、お客さまの生産性向上を後押しする AI を統合したアドオン機能である 「Playbook Copilot」の提供しています。Copilot の具体的な機能や生み出す効果については、プロダクトサイト にてご覧いただけます。
目次
セールス・イネーブルメントとは何か?
セールスイネーブルメントとは何か?
近年、注目が集まるセールス・イネーブルメント。しかしどこまでがセールス・イネーブルメントに含まれるのか、その言葉の定義は曖昧だと徳田氏は語ります。
「元々は営業のスキルを可視化して育成に役立てていくことを指していました。しかし近年では、セールスDX(データ可視化・データ利活用)をベースにした、成果直結を重視する一連の組織能力向上施策をセールス・イネーブルメントと呼ぶことが多いです。
以前から各組織ごとに個別最適の形でデータ活用は行われていましたが、セールス・イネーブルメントでは各データを横串に連携させて活用することが大切です。人事・育成データから営業戦略を策定したり、収益データから育成トレーニングを企画するなど、あらゆるデータを統合してクロスに施策展開することが大事になります」(徳田氏)
セールス・イネーブルメントが注目されてきている背景
徳田氏によると、セールス・イネーブルメントが注目されてきている理由には「ビジネス的背景」と「技術的背景」があると言います。
- ビジネス的背景:顧客のニーズの多様化による自社の提供価値・営業方法の複雑化や、企業側で属人的な営業スタイルから脱却してより高い生産性を求める動きが出てきたこと
- 技術的背景:SFA により営業活動データをデジタルで取得可能になったことや、MA などのデジタルマーケティングの成長により一元的な顧客管理ができるようになったこと
「弊社でも、15年前は電話を上手に販売していたレジェンドのような営業がいました。しかし、時代の変化に伴い AI や GX(※) を扱うことになると途端に着いてこられなくなくなったんです。そこで組織として営業能力を継続的に高めていくための方策としてセールス・イネーブルメントが必要となりました」(徳田氏)
※Green Transformation の略称。経済産業省が提唱する脱炭素社会に向けた取り組み
セールス・イネーブルメントに不可欠なデータ活用
セールス・イネーブルメントに欠かせないデータの利活用。ここからは、NTTコミュニケーションズと Magic Moment で、それぞれどのようにデータの利活用を考えているのか語られました。
セールスデータ以外もまとめて蓄積・分析する
「データの相関分析や統合を行い、新しいデータマートを作って分析するためには、例えば財務や人事といった、営業関連ではないものまで含めて、全てのデータを一箇所に蓄積することが必要」と徳田氏。
村尾から「多くの企業様では、営業にデータを入力してもらう段階でまず苦労されているかと思いますが、ここを乗り越えた工夫はありますか?」と投げかけられると、徳田氏は「データ入力で苦戦するケースは多いと思います。私自身も未だに四苦八苦しています」と回答。「しかし、例えば上からプレッシャーをかけたり、入力することのメリットを出してあげるなど、あらゆる手を使って分析のステップに進むことが必要です」と語りました。
蓄積したデータを分析して、顧客の状態・営業活動の状況に応じた示唆を出す
「セールスデータをサービスの利用状況や収益データなどと繋ぎ合わせることができれば、相当に高度な分析が可能になると思います。例えば、ウェブ上での記事の閲覧履歴やサービスの利活用状況から、顧客が抱える課題や提案内容を営業担当に示唆として出せるようになり、営業の生産性が高まってきます」(徳田氏)
村尾からの「示唆に対して営業はちゃんと動きますか?」という質問には、「モニタリングしていますが、やはり動いてくれる人と動いてくれない人がいます」と徳田氏。「『お客さまはこれについて興味がありそうです』といった示唆は見てくれるのですが、『商談フェーズが停滞しているので進ませてください』といった示唆は見られないこともありますね」と語ります。
「示唆については、基本的にはコミュニケーションツールで使っている Teams で通知をしていますが、最近では SFA に商談データを入れると、その後に必要なコンテンツやトレーニング動画をレコメンドする仕組みを作ったりもしています」(徳田氏)
データを行動に変えることで、営業組織の出力を高める
続いて Magic Moment 代表取締役 CEO の村尾から Magic Moment の考えるデータの利活用について語られました。
「徳田さんの場合、データを分析して利活用するところで、データを収集、加工、分析をかなりのコストを掛けて行い、まずはじめのインサイト(示唆)が出てきて、それを営業部門に伝えて、やっと行動になるといった流れだと思います。
しかし、今までお話させて頂いた大企業様の皆様では、CRM には数十万件の顧客データが入っているにも関わらず、それをどう行動に繋げるかにお困りであることが多かったのです。まるで営業は数十万件のデータの海の前に立ち尽くすような感覚でしょう。
膨大なデータが存在する場合、何を参考に営業を進めたら良いか分からなかったり、すべてを同期しようとすると莫大な時間が必要になります。これに対し、我々は、営業活動において重要なデータだけを同期して、すぐに担当者に対して次に実施すべきアクションを提示するプロダクトをご提供したいと考えました。顧客データ資産を営業活動に転換したかった。つまり、インサイトの前にまず営業の出力を上げるといった発想です。そこから初めて有効なデータの分析ができると」(村尾)
「CRM 上の数十万件の顧客データを Magic Moment Playbook に入れることで同期され、各営業担当に一気に振り分けられた後にアプローチするべき顧客に対して Next Best Action が発動する仕組みになっています。
問い合わせがあった顧客に対しては5分以内にフォローを開始することができ、忙しい時でも自動化機能によって質高く、例えば5回のフォローを徹底してくれます。そのため、皆様の営業活動量が倍増する結果を創出しています」(村尾)
「実際に、Magic Moment の営業メンバーがこの自動化機能を使って営業活動を行った結果、従来の時間換算でおよそ1ヶ月当たり221時間分の営業活動が行われています。つまり、Economic Value として一人当たり1名分の人件費を創出していることが分かっています。
営業のアプローチ回数が増える上、勝敗がすぐに決まるため、すぐに次の顧客を担当できる。重要だが煩雑で膨大なタスクが生まれるため、新規アプローチの件数を伸ばせなかった営業も、どんどん自動化機能とハイブリッドで活動できるようになる。その余地によって非常に大きな Economic Value が生まれる。
Magic Moment では、このようなデータをもとにした最適な行動のレコメンドとその実行のサイクルを重ねるほど、より最適な活動を自動で提案できるプロダクトを提供しています。つまり、データをもとにした行動の示唆がすぐに実行され、営業組織の出力が上がる形が、Magic Moment が理想とするデータの利活用です」(村尾)
セールス・イネーブルメントの KPI 設定と事業戦略
次に、徳田氏の書籍『セールス・イネーブルメントの教科書』から、村尾が気になったワード・テーマに関する質問が行われました。
ミクロで成果を見ていくことも必要
村尾:セールス・イネーブルメントの KPI はどうされていたのでしょう。徳田さんの書籍によると、全社から選りすぐったトップセールスを数十名集結されたとのことで、質的にも量的にもダイナミックな投資判断だったと思います。その投資判断をするには、それ相応の意思決定を行う必要があるじゃないですか?投資判断に資するものとしてどのような KPI を設定されていたのか伺えますでしょうか。
徳田氏:KPI としては、一人当たりの営業生産性を何億円に上げるといったようなシンプルなものから、ナレッジ系のコンテンツをどれくらい用意してどれくらい社内で使われるかとか、SFA への活動の投入量といった部分を設定します。しかし、セールス・イネーブルメントによって最終的にどれくらい売上に貢献しているかを説明することは難しいと考えています。
そのため、マクロだけではなくミクロでも成果を見ていくことも重要なのではないかと考えています。イネーブルメントに取り組んだ領域で KPI を設定し、実績が上がっていることを確かめる 。そこでのスモールウィンを積み重ねていくことで、最終的に事業計画全体に貢献していることを証明する方法が一番説得力もあり有用だと思います。
セールス・イネーブルメントを事業戦略に組み込む
村尾:ありがとうございます。もう一点お聞きしたく、セールス・イネーブルメントはセールスの組織単体として考えられてきたため、他部門とサイロ化することも多いかと思いますが、ここを乗り越える上での工夫はありますか。
実は弊社は、私が Google に在籍していた時に感銘を受けた Revenue Operations をサービス化している会社でもあります。我々は営業組織の出力は、人・オペレーション・テクノロジーとインサイトが掛け合わせだと定義しています。よって、お客さまの成功のための即戦力となる Sales BPO、データを価値にするための基盤作りを行う Revenue Operations、そして SaaS プロダクトである Magic Moment Playbook をサービスとしてご提供しています。
村尾:Revenue Operations においては、次の図で示すように、カスタマーライフサイクルが継続・アップセルに進むまでに、マーケティングやセールスの領域が一部被り、戦略&マネジメントや施策効率化、テクノロジー活用やデータ分析といった構成要素がありますが、これらを個別最適することなく、それぞれのオペレーションを統合させることで、包括的に LTV をマネジメントしていかなけばならないと考えています。
そのため、他部門とサイロ化することも多いイメージのあるセールス・イネーブルメントにおいて、徳田さんはどのように捉えられているのかをお聞きしたいです。
徳田氏:セールス・イネーブルメント組織を事業戦略における一つのコンポーネントとして置かれるケースは多いと思いますが、実際は事業戦略に近いところに置かないとなかなかスケールできません。現場改革に近い位置づけになってしまうと、結局何に意味があったんだっけとなってしまいます。
そのため弊社では、事業計画や事業戦略には必ずセールス・イネーブルメントの言葉を入れています。それくらい経営改革に組み込むことが大切だと思っていますし、これは最終的に村尾さんが仰る Revenue Operations に繋がる考え方だと思います。
生成系 AI で未来のセールスはどうなるのか?
著しく進化を遂げる生成系 AI によって、これからのセールスイネーブルメントや営業はどのように変わっていくのでしょうか。徳田氏と村尾、それぞれの考えについて語られました。
技術革新によりダイレクトなイネーブルメントに
「生成系 AI が出てきている中で、どこまでが人間でどこまでが AI か?イネーブルメントの対象は人間かデジタルか?といったことも考えていく必要があると考えています」(徳田氏)
「また、SMB やプロダクトセールス、カスタマーサクセスなど、商材がはっきりしてい営業のフローやロジックが明確であればシステムで自動化がしやすい一方、コンサルティングや共創ビジネス、大規模 SI といった領域ではカスタマイズが大きく難しい。そこで、ここを支援する上で生成系 AI を使っていくことが考えられると思います。生成形 AI は、商談を進めるためのアドバイス、セールスナレッジの入手、データ入力の補助といった3つの領域で活用できるのではと思います」(徳田氏)
人は価値を提案することに真剣に 感動すら与える営業に
Magic Moment の考える営業の近未来として、村尾は以下の4つを提示しました。
- SaaS のために働くのではなく、テクノロジーを統合して手足のように使う
- 顧客をガイドするのではなく Playbook で顧客群をマネージする
- 合意は自動で CRM に入力するのではなく、データを顧客と共創し自動記録される
- 欠勤したら明日挽回が必要だったが、自分がいない時もシステムが行動する
「我々も入力や記録が面倒であることは身に染みて分かってます」と村尾。そこで、先日発表した、大規模言語モデル「GPT」の API 連携を活用した、Magic Moment Playbook の3つの新機能(β版)について語りました。
「これらの機能については、まだお客さまには提供していませんが既に開発できてしまっています。つまり、もう目の前に先程お話した営業の進化形があります。ここからも加速的に生成系 AI との融合を考えていかなければならないと思います。
しかし一方で、それもお客さまにとって価値でなければ意味がないため、営業がどうやって進化していけば商習慣がより良くなるのか。より価値が社会に伝わっていくのかを考えていきたいと思います」(村尾)
セールス・イネーブルメント推進に関する徳田氏への質問
最後に、ご参加いただいた方々から頂いた質問に対する回答を行い、本トークセッションは締められました。
ー大企業でセールス・イネーブルメント施策を実施した際に、経営幹部やレジェンド営業を含めた保全性の高い方々を、どのように動かしていったのでしょうか?
徳田氏:セールス・イネーブルメント組織に最初からレジェンド営業を入れることで、「この人がやるんだ」といった雰囲気をまずは作りました。それからレジェンド営業には、「あなたのハイパフォーマーとしてのスキルを会社の資産にさせて欲しい」と伝えました。
ーハイパフォーマーの行動把握およびナレッジの横展開の事例について教えてください
徳田氏:ハイパフォーマーの行動把握については、外部の力も借りながらインタビューを行い、スキルエッセンスを細かく抽出していきました。
そこで得た気づきとしては、営業スタイルは人によって違っても、例えば「初回訪問時には営業資料を持っていかない」など、特定の場面では同じような行動を取っていることがあることでした。「最初はしっかりとお話がしたい」「何が本当の課題か分からないうちは資料を出さない方がいいと思う」など表現は違っても本質的には同じことを考えていることが分かりました。このような実は汎用的なスキルを把握しては、シェアリングサクセスという事例共有会で披露していくことを行ってきました。
ー今からセールス・イネーブルメントを始められた当初に戻れるなら、まずは何から始められますか?
徳田氏:社内での市民権を得ることから始めます。私自身も、社内で理解が得られず、人も付かないような不遇な時代があり、そこからブレークしていくまでは大変でした。そのため、組織的な巻き込みが一番最初にできると良いと思います。
登壇者情報
NTTコミュニケーションズ株式会社
OPEN HUB for Smart World Director / Senior Catalyst 徳田泰幸氏
法人営業を15年間経験後、新規開拓営業組織の事業戦略担当として組織能力開発に従事し、2019年にイネーブルメント機能として社内組織であるData.Camp®を立ち上げる。現在では3,500名の大手法人営業部隊のセールス・マーケティングを推進する機能として当組織の運営を行う一方で、国内企業全体のセールス・イネーブルメントの発展と底上げを目指し、営業・マーケティング関連イベントにおいても多数講演。著書:『セールス・イネーブルメントの教科書』(イーストプレス)
Magic Moment 代表取締役 CEO 村尾祐弥
中央大学法学部卒業後、2社を経てGoogle Japan、freeeで営業部門の統括及び責任者として事業成長を牽引。2017年にMagic Momentを立ち上げ、2018年9月より経営を本格化。累計資金調達額20億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。LINE様やUSEN様、凸版印刷様等、多くのエンタープライズ企業の営業変革を人・テクノロジー・オペレーションの全方向から支援。2021年にローンチした営業AI行動システム Magic Moment Playbook は、SMBの大量解約の時期を乗り越え、現在はエンタープライズ企業の生産性向上、LTV向上を非連続に実現している。
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