経営指標とマーケティング戦略の関係 【セミナーレポート】
- SaaS 事業、 LTV の高さがマーケティング戦略の自由度を決める
- SaaS の経営指標の1つに顧客1人あたりの採算性を測る「ユニットエコノミクス」がある
- ユニットエコノミクスを健全に保つためには、「 LTV をいかに高めるか」という議論が必要
- LTV を上げるために考えるべき軸は、「顧客単価を上げる」と「解約率を下げ、継続期間を伸ばす」の2つ
- LTV の高い会社はマーケティングの選択肢が多くなり、ビジネス全体としての成果をよりあげられるようになる
この度、1/30(木)に Magic Moment 初のセミナーとなる『数字指向の SaaS 経営 – 爆発的に成長する BtoB SaaS の裏側 – 』を株式会社才流様と共催いたしました。
昨今、SaaS ビジネスの普及に伴って、経営者の考え方や重視すべき指標、組織の文化も変化が求められるようになりました。
そんな中、本セミナーでは、SaaS ビジネスの経営者やセールス部長などが見るべき指標やその改善策について、事例やノウハウを交えてお話したので、本記事ではその内容をご紹介します。
目次
登壇者プロフィール
栗原 康太氏
株式会社才流 代表取締役
1988年生まれ、東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒業。2011年にIT 系上場企業に入社し、 BtoB マーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに掲げ、経営者・事業責任者の想いの実現を加速させる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。アドテック東京などのカンファレンスでの登壇、宣伝会議・広報会議など主要業界紙での執筆、取材実績多数。
LTV の高さがマーケティング戦略の自由度を決める
才流のクライアントの中に BtoB SaaS 事業者様も多数いますが、様々な BtoB 企業のマーケティング支援をする中での気づきが、「 LTV の高さがマーケティング戦略の自由度を決める」ということです。
まず前提として、SaaS の経営指標の中に、「ユニットエコノミクス」があります。これは、LTV (顧客生涯価値) ÷ CAC(顧客獲得コスト)で算出され、顧客1人あたりの採算性を測るものです。
事業立ち上げフェーズでは戦略の観点からユニットエコノミクスが3未満のままになることはあります。しかし、一般的な指標の捉え方として、ビジネスの収益化を目指す段階では、LTV ÷ CAC が3倍だと健全、3倍未満だと不健全だと言われています。
ユニットエコノミクスを高めるためには、LTV を上げ、CAC と LTV の差分を大きくする必要があることが計算式から分かります。LTV は、正確に計算するには粗利で考えなければいけませんが、今回は説明を簡略化するために売上ベースの LTV で説明していきます。
LTV が高い BtoB SaaS マーケティングの成功者はCAC を意識していない
以前は、BtoB マーケティングで成功している企業の要因は「組織の実行力の高さ」にあると考えていました。しかし、様々な BtoB 企業の経営者と議論する中で、LTV が高い会社では、CAC や CPA を細かく気にしていない傾向に気づき、BtoB マーケティングの成否を分けるのは LTV の高さなのではないかと思い始めるようになりました。
例えば、売上ベースの LTV が 3000万円の会社では、「LTV ÷ CAC > 3はどの施策をやっても達成できてしまう」状態になっており、LTV が6億円の会社では、「目安の CPA や CAC は設定しているが、特に気にしていない」という状況だと聞きました。また、LTV 2500万円以上のあるSaaS 企業では、CAC に300万円前後投下しています。LTV が高ければ、顧客獲得コストをあまり気にする必要がなくなるのです。
議論すべきは「LTVをいかに高めるか」
例外的に、ネットワーク効果が効く商材や、既存顧客に対する別商材の販売などによって CAC を劇的に下げることはできますが、一般的に BtoB では、営業が介在するため、最低でも CAC は15万円程度かかり、それ以上 CAC を下げることは難しくなります。
また、カンファレンスを開催し、タクシー広告を打ち、MA やSFA ツール を入れ、フィールドセールスが手厚く提案するなど、コストを最大限かけても CAC の上限はおそらく数百万円程度で、顧客単価によって著しく金額が変わることはありません。CAC はどこかで頭打ちが来てそれ以上は上がらないとなると、ユニットエコノミクスを健全に保つために議論が必要なのは「 LTV をいかに高めるか」という点になります。
LTV を上げる 購買単価の向上 × 継続期間の延長
LTV を上げるために考えるべき軸は2つあり、1つ目は「顧客単価を上げる」2つ目は「解約率を下げ、継続期間を伸ばす」です。
まず、顧客単価を上げるために必要なのは、重要度の高い課題を解決すること、中堅・大手を対象にすること、クロスセル商材を開発することの3つです。
「重要度の高い課題を解決する」に関しては、顧客に提供できた価値によって単価は左右されるため、顧客にとってより重要度の高い、経営に対するインパクトの大きい課題を解決する必要があります。
クロスセル商材の例としては、BtoC サービスですが、Appleがわかりやすいです。MacBook を使っている人は、iPhone、iPad、Apple Watch、AirPods、Apple Musicなど、Appleから様々な商品を買っているケースが多いです。これに近いことを実現している BtoB SaaS 企業もあります。
継続期間を伸ばすために必要なことはオンボーディングを強化する、そもそも良いプロダクトを開発するなど、色々ありますが、マーケティング支援会社の視点で言うと、そもそもカスタマーサクセス(CS)しにくい会社に売らないことが重要です。
CS しにくい会社は、自社のプロダクトがマッチしない会社で、SaaS の指標で言うとチャーンしやすいセグメントです。そもそも CS しにくい顧客セグメントに売らないようにマーケティング段階から注意する必要があります。そのために、既存顧客を分析し、セグメントごとのチャーンレートを分析しましょう。
チャーンレートについてはこちらをご覧ください。
LTV の高い会社は選べる打ち手が多い
LTV の高い会社はマーケティングの選択肢が多くなります。例えば、LTV が低い会社では、リスティング広告、テレアポ、飛び込み、DM などの限られた施策しかできませんが、LTV が高い会社では、カンファレンス開催、タクシー広告、MA ツール導入、コンテンツ作成などと幅広く選択肢が持てます。
幅広い施策を試していく中で PDCA を回す経験から色々なナレッジが会社に蓄積されていき、施策の確度は上がっていきます。施策の確度が上がれば、より効率よくマーケティング投資を回収できるため、ビジネス全体としての成果をよりあげられるようになっていくのです。
CAC を劇的に下げることは、一部のビジネスモデルでできる場合もありますが、基本的には難しいため、より重要度の高い課題を解決したり、販売する対象を変えたり、CS するセグメントを選んだりすることによって LTV を高める必要があります。つまり、マーケティング施策を考える前に、LTV を上げることが、マーケティング施策の成功の近道となっています。
第二部の株式会社 Magic Moment 代表取締役 村尾 祐弥による「数字指向の組織づくりで大切なこと」も合わせてご覧ください。
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