大学ベンチャー最前線(序)躍進のカギは効率的なマーケティング戦略にあり
本シリーズ記事は、大学ベンチャー及び大学VCの関係者の方へ向けて、マーケティング領域の新たな知見の提供を目指すものです。
目次
大学ベンチャーが40倍増加した”平成”期
1989年(平成元年)ではわずか54社しか確認されていなかった大学ベンチャーですが、2017年(平成29年)には2093社にまで増加しています。大学ベンチャー数がおよそ40倍増加した平成期は、まさに「大学ベンチャー躍進の時代」と呼べるのではないでしょうか。大学ベンチャーが資金調達やIPOに成功するケースは増えており、もはや大学ベンチャーは投資家にとっても注目の的といっても過言ではないかもしれません。
これからも期待は高まる大学ベンチャー
こちらは2017年の大学ベンチャーの業種を円グラフで表したものです。IT(アプリケーション・ソフトウェア)やバイオ・ヘルスケア・医療機器業界、環境テクノロジー・エネルギーなどが大部分を占めています。
これらの業界はこれからも市場成長が期待される、世界的にも注目度の高い業界です。
大学ベンチャーの中には、世界でも類を見ない独自の技術、いわゆるコア技術の実用化で社会にまだ見ぬインパクトを与えうる企業も多数存在しており、まだまだポテンシャルを期待できそうです。
高まる期待の陰で~大学ベンチャーの経営状況~
期待の集まる大学ベンチャーではありますが、必ずしもその経営状況は順風満帆というわけではないようです。調査報告書でも、様々な観点から捉えた大学ベンチャーの経営状況が公表されています。
※尚、以降のデータは経済産業省によるアンケートに回答した大学ベンチャーのデータであり、大学ベンチャー全体のものではないことにご注意ください。
売上高と経常利益
売上高1億円に満たない企業がアンケート回答企業数の約80%(260社)を占めており、営業利益も平均値がマイナスとなっているような状況です。企業業績の要ともいえる売上高や営業利益をみると、これからの事業成長を実現させなければ企業としての存続すらも厳しい状況ということがわかります。
正社員数
正社員数は、アンケート回答企業の半数以上が5人未満となっています。コア技術を中心に事業成長を狙うような研究開発型のベンチャーの場合、研究開発に一定の人的リソースを配分する必要が生じると予想されるので、企業を成長させていくための人的リソースが豊富とはいいがたい状況であることが考えられます。
人材獲得状況に対する満足度
大学ベンチャーの場合、経営陣や従業員に大学関係者が多いことが予想されます。大学関係者の場合、経営や財務、営業販売領域の豊富な実務知識・経験を持つケースは少ないのではないでしょうか。
グラフを見ると、財務人材や営業販売人材の満足度は低位となっています。
売り手市場の昨今、満足のいく人材獲得も容易ではない状況を表しているのかもしれません。
大学ベンチャー躍進のカギ
これまで見てきた通り、大学ベンチャーの経営状況は必ずしも順風満帆ではありません。
それでは大学ベンチャーが、今後も成長していくために求められることとは、一体どんなことなのでしょうか。
調査報告書の中でも、売上高成長率の要因として①人材②資金調達③販路開拓④コア技術の活用⑤アライアンスの観点から分析がなされています。
本記事では、③販路開拓の調査結果にさらに注目していきます。
大学ベンチャーが”効率的”なマーケティングを考える意味
そのマーケティングは果たして”効率的”か
ここからが本記事の本題です。
大学ベンチャーの販路開拓にさらに注目すると、興味深いデータが観察できます。
グラフは、売上高成長率が高い企業群と低い企業群のうち、特定の販路開拓手法を取っている企業が何%あるかを事業ステージごとに示したものです。
ステージ前期:事業開始前(PoC前)~事業開始前(PoC後)~事業開始後(単年赤字)
ステージ後期:事業開始後(単年黒字かつ累積赤字)~(単年黒字かつ累積赤字解消)
ステージ前期では、売上高成長率の高い企業は、低い企業に比べて、展示会やピッチイベントなど直接的な広告活動や商社を通じた代理販売での販路開拓が有意に多いという結果が報告されています。
一方でステージ後期では、売上高成長率の高い企業は、低い企業に比べて、展示会やピッチイベントなど直接的な広告活動に加えて、Webなどを通じた不特定多数に向けた広告活動での販路開拓が有意に多いという結果が報告されています。
割合の比較なので、断言することはもちろんできませんが、売上高の成長率が高い企業のマーケティング手法が事業ステージごとに変化している可能性を指摘できます。
つまり、大学ベンチャーがマーケティングを成功させるには、事業ステージに応じた適切な手法を考えていく必要があるのかもしれません。
それでは、どうやって適切な手法を選択すればいいのでしょうか。
そこで今回取り上げるのは、その手法が”効率的”かどうかで判断する方法です。
“効率的”とは、”費用対効果が高い”ということ
例えば、100万円で購入してくれる販路を獲得するために、10万円かかる手法と、80万円かかる手法では、費用対効果が全く異なるということはすぐに理解できるかと思います。
もちろん、費用対効果の費用に含めるものはお金だけではありません。
時間や人材、モノに至るまで、投資したリソースはすべて費用として考えます。
ついつい「販路を〇件獲得できた」、「売り上げが〇%向上した」といった”結果”に目が行ってしまいがちですが、成長をしていくためには、そうした結果をどれくらい”効率的”に出せているかまで突き詰めていくことが求められます。
そもそもマーケティングにリソースを投入するべきか
コア技術そのものがコアコンピタンスである研究開発型の大学ベンチャーのような場合、マーケティングへのリソース投入をせずに、研究開発にリソースを全て割く方が、”効率的”な場合もあるかもしれません。
実際に、国内外の大学ベンチャー企業では、民間企業にマーケティングを委託しているケースも見受けられます。その分、研究開発にリソースを費やしたほうが”効率的”だと判断したからなのかもしれません。
前半で確認したように、大学ベンチャーの経営状況は楽観視できるものではなく、限られたリソースを有効に使いながら、なるべく早く企業を成長させていくことが求められます。特にコア技術の事業化などプロダクトの実現を目指す大学ベンチャーにとって、マーケティングにリソースを非効率的に投入したことで、研究開発へリソースが割けなくなり、研究開発プロジェクトに遅れを生み出してしまうなどといったことは「絶対に避けたい最悪なシナリオ」といえます。
そんな事態に陥らないためには、自社のマーケティングの効率性を分析して、その課題を明らかにすることが大切です。
もちろん、効率性といっても誰でもすぐ簡単に分かるようなものではありません。マーケティング経験やデータを基に、課題を見抜くことのできる高度なリテラシーが必要です。
Accelを運営するMagic Moment社には、まさにその高度なリテラシーを持つマーケティングのスペシャリストが在籍しています。
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参考文献
経済産業省 産業技術環境局大学連携推進室 平成29年度産業技術調査事業(大学発ベンチャー・研究シーズ実態等調査)報告書
http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/h29venturereport.pdf
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