SaaS 事業で絶対見るべき指標 Magic Number とは?

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要約SUMMARY
  • Magic Number とは、ビジネスの収益獲得に向けたマーケや営業にかかったコストの回収率
  • Magic Number を判断基準とすると、四半期の収益からセールス・マーケの貢献度合いも明らかになる
  • 長期的には Magic Number を判断指標にしつつ、他指標も合わせて判断材料とする必要がある

SaaS・サブスクリプション事業において、セールス・マーケティングのコストを管理することに行きづまっていませんか?

SaaS・サブスクリプション事業には、成功のための型が存在しており、それは指標を使って計測することができます。特に、サブスクリプション事業の企画責任者にとって、 ARR や MRR の獲得とセールス・マーケにかかるコストのバランスを数値で認識することは必要不可欠です。

そのため、様々ある SaaS 事業の指標の中でも、売上を獲得するために支払ったセールス・マーケティングのコストの回収度合いを測る Magic Number は、最重要指標のひとつと言えます。

本記事では Magic Number についての説明と、「なぜ Magic Number は SaaS 事業にとって重要なのか」をベンチマークとともに詳しく解説していきましょう。

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SaaS における Magic Number とは?

SaaS における Magic Number とは、具体的にどのようなサブスクリプション指標となるのか、説明します。

Magic Number とは、ビジネスの収益獲得に向けてキャンペーン施策や営業にかかったコストの回収度合い(回収率)の計測値です。Magic Number は、企業の MRR や ARR から販売効率を判断するための指標になります。

企業が Magic Number を活用するタイミングは、該当する四半期において、セールス・マーケティングに投資することにより、「どれくらいの収益が見込めるのか?」を判断するときです。 Magic Number を判断基準にした場合、今四半期の収益からセールス・マーケティングの貢献度合いも明らかになります。

では、Magic Number の算出方法について見ていきましょう。

Magic Number の算出方法は、(今四半期の Revenue – 全四半期の Revenue)×4/前四半期のSales&Marketing Cost+Customer Success Cost となります。

  • Sales Cost=人件費・ツール利用費などセールスにかけたコスト全般
  • Marketing Cost=人件費・ツール利用費・広告費などマーケティングにかけたコスト全般
  • CS Cost=人件費・ツール利用費などカスタマーサクセスにかけたコスト全般

分子を4倍している理由は、四半期の売上分を年間の値で補正するためです。 Magic Number を算出するためには、前四半期と今四半期の計6ヶ月分のデータが必要になります。具体的なベンチマークで見ていきましょう。

たとえば、今四半期の Revenue(収益) を1000万獲得して、前四半期の収益が800万円と仮定します。さらに、前四半期の Sales&Marketing Cost が300万円費やして、CS Cost に480万円投入しました。合算すると、分子が800万円となり、分母が780万円です。計算結果は、Magic Number が1.025となります。

{(1000-800)×4}÷(300+480)=1.025

上に示した計算例から企業の Magic Number は算出され、セールスやマーケティングコストと収益の関係を数値指標1.025と評価できました。経営判断において、 Magic Number が翌四半期の投資判断となるでしょう。

たとえば、算出された Magic Number に基づいて「ARR を〇〇円増やすために、セールスとマーケティングに〇〇費やす」と事前判断ができます。 Magic Number は、過去の ARR をベンチマークとして、効率的な改善ができるのです。

なぜ SaaSでは Magic Number が重要なのか?

企業の経営指標として、セールス・マーケティングコストの評価となる Magic Number の重要性について解説しましょう。 SaaS 事業の企画責任者は、 Magic Number を使うことによるセールス・マーケティングの効果を可視化できます。
そのため Magic Number は、セールス・マーケティングの改善に必要な取り組みにも活用できるでしょう
Magic Number による改善項目は次の通りです。 

  • セールスの再設計
  • コスト削減
  • メンバーの教育・訓練

Magic Number がビジネス環境において、「資本効率のよい投資であるか?」を判断することができます。
経営判断による改善は、セールス設計の見直しやコスト管理、社内人材のスキルアップなどです。

セールスの再設計では、 Magic Number から「どの時点で不適切な投資が発生しているか」と判断が可能です。 Magic Number による評価は、 不適切な投資コストに対して、セールスの改善ポイントを見つけて効率のよい対応となります。

また Magic Number は、 ARR や MRR とセールス・マーケティングコストの回収度合いにより、的確なコスト削減を実行できるでしょう。 Magic Number は、四半期ごとの Revenue からセールス・マーケティングの貢献度合いを判断できるため、改善を必要とする場合にのみ、コスト削減を実行できるからです。

さらに Magic Number は、事業のメンバー全員で共通認識できる単純な数値指標となります。そのため、Magic Number の評価をもとにした施策を打ち出すこともできるのです。社内のメンバーにとっては、教育や訓練にもなり、社内のスキルアップにつながります。

Magic Number の適切な値とは?

Magic Number は、企画責任者にとって、経営層に伝える販売効率と施策の指標となります。では Magic Number に適切な数値はあるのでしょうか? SaaS 事業の場合、 Magic Number は「1.0が理想的 」とされています。その理由は、事業が今四半期で獲得できた Revenue を当期中に投資しきれるからです。

上の図のように、 Magic Number の適切な数値は、 3つの範囲で分けることができます。

  • 算出された Magic Numberが 0.5より少ない場合は、セールス&マーケに投資すべきではない状態です。
  • Magic Number が0.5以上0.75より少ない場合は、セールス&マーケに投資するか判断する段階となります。
  • さらに、0.75以上の Magic Number の場合は、セールス&マーケに投資すべき段階です。

先ほど例にあげた Magic Number では、1.025という数値になりました。
例にあげた Revenue は、前四半期よりも今四半期のほうが高く、セールス・マーケコストは、増えた Revenue よりも低くなっています。そのため、的確な数値と比べると「セールス・マーケに投資すべき状態」となるのです。

逆に、Magic Number が“0.5”より少ない場合は、「セールス・マーケに投資しない」という判断になります。
このように Magic Number は、3つの判断基準で企業資産の投資行動を評価できるのです。

Magic Number だけでは SaaS ビジネスの健全性を測りきれない

Magic Number は、セールス・マーケティングにかけたコストに対する結果を評価するだけになります。

そのため Magic Number では、セールス・マーケのコストにおける効率性以外は示せません。Magic Number では、粗利益などビジネスの全体像が把握できないのです。

ビジネスの全体像を把握するためには、他にも考慮すべき指標があります。回収期間法となる payback period を紹介しましょう。

payback period は、サブスクリプション契約の SaaS 事業におけるコスト回収期間を基準にした考え方です。
一般的には、投資した費用を「何年かけて回収できるか?」を基準として、KPI を設定します

payback period は、投資の評価技法として、目標設定した年数より低い場合は投資を実行して、目標設定よりも高くなった場合は投資を控える考え方です。計算式は、次のようになります。

回収期間=初期投資金額÷今後の年間キャッシュフロー

payback period は、粗利や粗利益率が高いほど、損益分岐点に早く到達する点が理解できるでしょう。

Magic Number だけでは、セールス・マーケティングのコストを過剰に投資してしまうことも考えられます。その際は、 payback period とあわせて評価していくことが必要です。

まとめ

今回は、 Magic Number について解説してきました。

SaaS 事業の運営は、ビジネス状況の全般を追求しなければいけません。そのために欠かせない Magic Number は、事業経営におけるセールス・マーケの投資判断指標となります。

Magic Number の算出式を使って、今四半期のビジネスにおけるコストを前期とベンチマークできる評価方法です。Magic Number は、ビジネスの資本効率を高める効果が期待できます。

ただし、 Magic Number だけでは、ビジネス全体の状態を把握できません。長期的には、 payback period など他の指標も合わせて判断材料とする必要があります。そのうえで、 Magic Number は、効率のよいコストバランスになる判断指標となるのです。

また、SaaS ビジネスには他にも Sales Velocity や Quick Ratio など、他にも重要な KPI が多数存在します。

サブスクリプションビジネスの成功に欠かせないKPI 10選では SaaS 企業ではどの KPI をチェックしていくべきか詳しく解説しています。ぜひ併せて活用ください。