SaaS のインサイドセールスの役割 効果を徹底的に高めるには?
- SaaS 企業が増加する中で、顧客ニーズ顕在化の役割を担うインサイドセールスの重要性が高まっている
- SaaS ビジネスは、サブスクリプション型のサービス提供が多くを占めており、顧客はいつでも解約やプラン変更が可能といった特徴がある
- SaaS ビジネスの特徴を踏まえたうえで継続率を高め、自社へのロイヤルティを高めるためには、インサイドセールスが果たすべき役割を把握することが重要である
- インサイドセールによって得られた顧客情報はマーケティング・営業・開発にも活用できる
インターネットを通じてソフトウェアサービスを提供する SaaS 企業が増加傾向にある中で、インサイドセールスの重要性も高まっています。
Hubspot が2022年2月に発表した「日本の営業に関する意識・実態調査2022」1)によれば、日本企業のうち40.4%が「電話・Eメール・DM・ビデオ会議」などリモート営業(非訪問型の営業手法)を導入、そのうち35.6%の企業が1年以内の導入であり、インサイドセールスへの需要が高まっていることがわかります。
顧客ニーズを顕在化させ、営業担当に案件を引き渡す「インサイドセールス」は、顧客との長期的な関係構築で収益を得る「SaaS 事業」との相性がよく、成約に近い見込み客を供給するためにも欠かせない営業手法です。
本記事では、インサイドセールスが SaaS 企業に広く導入されている背景から重視される理由まで詳しく解説します。
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目次
SaaS のインサイドセールスとは
「インサイドセールス」とは、電話・メール・チャットなどオンラインのコミュニケーションツールを活用し、見込み顧客に向けた「非対面営業」を遠隔で行うことです。
特に、マーケティングや営業活動プロセスを分業体制で行う「The Model 型」の営業体制をとる SaaS 事業におけるインサイドセールスは、マーケティングによって供給されたリードをフィードセールスへとつなぐ「中継地点」ともいえる重要な役割を担っているといえます。
SaaS で効果的なインサイドセールスを行うには、より長く自社の顧客となってもらえるようなナーチャリングと、その案件の選別が欠かせません。
インサイドセールスが欠かせない SaaS のビジネスの仕組み
SaaS ビジネスでインサイドセールスが欠かせない理由を把握するためにも、まずは SaaS ビジネスの仕組みや特徴を把握しておきましょう。
SaaS とは
SaaS とは、インターネット接続環境を用意できれば、いつでもどこでもクラウド上のアプリケーションを通じて利用できるソフトウェアサービスのことです。
従来のソフトウェアはパッケージを購入、PC やサーバーに直接インストールしてそのデバイスの範囲内で利用するスタイルが主流でしたが、SaaS はクラウド上にあるアプリケーションに各種デバイスからダイレクトにアクセスできます。
SaaS のビジネスモデル
SaaS ビジネスの身近な例としては、以下のようなサービスが挙げられます。
- ビジネスチャットツール「Chatwork」
- 音声・ビデオ通話ツール「Skype」
- Google 提供のストレージサービス「Google Drive」
- Web会議システム「Zoom」
- クラウド会計ツール「freee」
SaaS ビジネスの特徴
SaaS のアプリケーションはクラウド上にあるため、インターネット接続があれば、どこからでも、どのデバイスからでもアクセスできます。 SaaS では、1つのデータベースを複数のスタッフが簡単にシェアできるのはもちろん、共同での利用、個々による編集も可能です。
SaaS の契約スタイルは、従来の買い切り型のソフトウェアとは異なり、サブスクリプションによる定額料金制のスタイルが主流です。顧客は初期投資を抑えられるうえ、いつでも解約やプラン変更等ができるというメリットがあります。反面、SaaS企業にとっては、顧客満足度を得られない等の理由でいつでも解約されるリスクがあるわけです。
SaaS ビジネスでは、顧客獲得にかけたコストを回収しつつ利益を上げていくために、より長期的に継続してくれる顧客を多く確保する必要があり、そのためにもインサイドセールスが欠かせないのです。
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SaaS でインサイドセールスが重視される理由
続いて、インサイドセールスが SaaS 事業において重視される理由について、さらに詳しく解説します。
SaaS の収益ドライバーであるインサイドセールス
SaaS が解約に至るケースとして、顧客満足度が得られなかった、サポートが不足していた等の原因が挙げられますが、必ずしもそれだけが問題なのではありません。
例えば顧客ニーズに合っていないサービスを無理な提案で契約してもらったり、一時的な割引で予算オーバーのサービスを提供したりといったケースでは、そもそもの成約時点で解約の確率が高いと予測できます。
提供するサービスの内容を十分に理解していない、サービスを利用して何が得られるのか、明確なビジョンもなしに契約してもらったとしても、解約は時間の問題でしょう。
長期的にサービスを利用してもらうためには、顧客の意思決定の理由も非常に重要です。
SaaS の解約理由の約50%は、既存顧客へのサポート、製品の導入等におけるカスタマーサクセスの領域からの影響であり、残りの半数は SaaS を契約するまでのマーケティングや営業活動からの影響であるといわれています。SaaS 解約の約半数が、サービス自体の問題ではなく、それ以前のアプローチ段階での問題だとすれば、到底軽視できるものではありません。
例えば、営業がサポートをする前提で成約に至ったにも関わらず、求めるフォローがほとんど得られず放置されたとすればどうでしょうか。顧客が契約を継続する意味を失ってしまい、近いうちに解約に至るでしょう。
SaaS の成約以前に、継続的に自社サービスを使い続けてくれる見込みのある顧客を集めることが、解約率低下にもつながるわけです。
インサイドセールスは、顧客の購買意欲を高めるほか、確度の高い案件を見極めるフィルター的な役割をもっています。SaaS 事業の成長にはインサイドセールスの精度を高め、営業担当に向けて継続見込みのある顧客を適切なタイミングで供給することが求められます。
顧客行動をチェックしつつ顧客ニーズを満たし、満足度を高められれば、解約や他社サービスへの切り替え回避になり、口コミ効果、自社ブランディング強化にもつながります。
SaaS が分業型にマッチしている
SaaS 企業の多くは、上図の右側に示した「The Model 型」での営業プロセスを採用しています。
The Model 型の組織体制では、分業で各部門の役割を明確にして効率化を図り、連携し、より長期的な継続が見込める顧客からの受注獲得を目指します。
ただし、分業化は効率を高められる一方で、各部門が閉じてしまい、部門間のスムーズな情報共有の妨げになったり、目的がずれてしまったりといった問題が生じやすい傾向にあり注意が必要です。
例えば、マーケティングでは「とにかくリード数を伸ばすこと」を目的に、営業は「とにかく受注数を伸ばすこと」を目的に、とそれぞれの目指すべき目標設定がずれてしまえば「継続性の高い優良顧客の獲得数を伸ばす」という最も重要な目的達成は難しくなります。
このように、各部門の目的が本来の目的と一致していなければ、どんなに注力しても SaaS 事業の成長の妨げになってしまうのです。
マーケティングと営業とをつなぐインサイドセールスは、見込みのある案件をターゲットとして受注につなげていくために、重要な役割を担っているのです。
インサイドセールスの精度を高め、営業に見込みの高い案件のみを供給、営業活動や自身のナーチャリング活動から得られた示唆をマーケティングチームに共有できる体制が整えば、ターゲットの見直しや、より良いコンテンツ案の検討にも活用できます。
インサイドセールス導入にあたっては、以下の図のように各部門の活動が一貫した目的につながるように構築していくことが重要です。
SaaS インサイドセールスの役割
続いて SaaS 企業のインサイドセールスに求められる「果たすべき役割」について具体的に見ていきましょう。
リードナーチャリング
リードナーチャリングとは、リード(見込み顧客)との関係性を構築して購入意欲を高め、受注獲得を促進するためのマーケティング手法のことです。
BtoB ビジネスにおいては、案件の発生から営業活動によって受注するまでのリードタイムが長くなりがちで、営業リソース効率化の観点からも、リードナーチャリングは非常に重要です。
SaaS 企業におけるインサイドセールスの役割は、継続の見込みが高い顧客を、成約の見込みが高い状態になるようリードナーチャリングしていくこと。
個別に最適化したアプローチを実践できるのが、SaaS におけるインサイドセールスの強み。マーケティングでは、オウンドメディアや広告、Webinar などでも相手の行動ありきであり、自社で相手を選ぶことはできません。
インサイドセールスでは、サービス提供側から、メールや電話といったコミュニティツールでピンポイントに、顧客にとって役立つコンテンツを送信したり、アピールしたりが可能です。顧客に直接アプローチすることで温度感を高め、自社へのロイヤルティを高められるかの検証にも活用できます。
インサイドセールスでリードナーチャリングを行う場合、個別化されたアプローチでは、ターゲットの課題や属性のみではなく、セールスファネルのどの段階にいるかについても加味するべきで、この点には注意が必要です。
上図のとおり、The Model 型におけるインサイドセールスがアプローチすべき顧客は、自ら情報収集を行いサービスを比較・検討しているフェーズにある顧客です。
インサイドセールスで重要なのは「見込み顧客の性質に基づく軸」と「その時点での購買フェーズ」の2つの軸において、それぞれの適切なタイミングとタッチポイントでアプローチしていくこと。自社に興味をもってもらうために、いつ、どのようなアプローチをすべきか、ターゲットに合った方法を検討する必要があります。
例えば、ターゲットとなる企業担当者が、自社のウェブサイトから資料請求した場合、それは上図の「顧客による調査・評価」の段階にあり、The Model 型の営業プロセスでは見込み顧客を育成するフェーズということになります。
インサイドセールスではそのフェーズに従い、顧客からの資料請求に応じて資料を送付するとともに、その請求時に示された内容や状況に添った的確なフォローのメールや電話で、顧客が自社との関係性を構築できるようにアプローチしていくといった流れです。
インサイドセールスでは、自社起点ではなく顧客視点で「見込み客がなぜ自社と接点をもつべきか」を徹底してアプローチすることが重要です。顧客に「いつ」「何を」「どうやって」「どのように」伝えれば、数ある競合サービスの中から自社を選択し、特別な位置づけで関係性を構築していけるのか、考え抜いて実践していく必要があります。
セールスへのスムーズな引き継ぎ/連携
インサイドセールスでは、案件をフィールドセールスに引き継ぐのも重要な役割の1つです。
引き継ぎの際には、フィールドセールスでアプローチするのに適切な状態の顧客を、適切な情報とともに引き継ぐことが求められます。
フィールドセールスでアプローチするのに適切な状態とは、見込み顧客の温度感が高く、営業担当の提案するプランに対する意欲をもっている状態を指します。ここで大切なのは、引き継ぐ案件の状態など、定義を明確にして部門間で統一しておくことであり、定義を明確に統一するには客観的に判断可能で、透明性のある情報が必要です。
例えば以下のような判断基準を設けるといいでしょう。
- 顧客が自社のセミナーに◯回以上参加している
- メルマガの開封率が◯%以上かつ問い合わせ等のアクションを起こしている
- インサイドセールスが送付した資料を十分に理解しており、顧客が情報提供を求めるアクションを起こしている
インサイドセールスが営業に引き継ぐ適切な情報とは、インサイドセールスによって知り得た顧客の「欲求」や「課題」等の情報であり、これらはセールス提案に欠かせない非常に重要な要素です。
例えばインサイドセールスで把握しているはずの顧客の状況や情報を、フィールドセールスが受注につなげる段階で改めて顧客に確認したり、同じ説明を繰り返したりすれば、顧客の購買意欲を削ぐことになりかねません。
顧客が自社を認知してから、サービスを購入し継続してもらう、この全過程において、シームレスかつスムーズな営業体験を届けることが大切です。
顧客情報を全社的に転換
インサイドセールスの強みは、顧客と直接接する機会が多いことです。
マーケティングでは、顧客のリアルな声をキャッチするのが難しいですし、SaaS の分業型プロセスで営業が触れるのは、見込みあり、確度の高い案件に限定されています。
インサイドセールスにおいては、自社サービスにそれほど興味関心をもっていない見込みの薄い顧客から、見込みありの優良顧客まで、幅広い顧客層の生の声に触れられます。つまり、自社サービスの受注に近いのはどういった層なのか、何をどう求めているのか、他部門の担当者より高い精度で認識できる可能性があるわけです。
こうした強みを活かし、インサイドセールス発信で、例えば以下のような情報提供を担うことができます。
対象部門 | 共有可能な情報 |
マーケティング | 自社サービスに合う顧客ターゲティング見直しに役立つ情報 |
フィールドセールス | 顧客を動かすトリガーになり得る情報 |
開発担当 | 顧客が抱えるリアルなビジネス課題や注目しているサービス等の情報 |
このような情報を全社的に転換できる環境を構築できれば、SaaS 事業の成長にも大いに貢献してくれます。
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《引用文献》
1)Hubspot Japan 株式会社. 「日本の営業に関する意識・実態調査2022」. 2022-02-16. https://www.hubspot.jp/company-news/stateofsales-20220216, (参照 2023-03-01)
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