SaaS ビジネスモデルの成功の秘訣
- SaaS ビジネスの特徴は、毎月の売上を積み上げるストック型のビジネスであるため、今後1年間の売上といった先の数字が読みやすいこと、また顧客体験の重要性が高いモデルであることが挙げられます。
- SaaS ビジネスのメリットには、収益が損益分岐点を超えると利益率が高まること、口コミなどで自社のサービスの良さが一気に広がる可能性があること、データに基づいた意思決定ができることが挙げられます。
- SaaS ビジネスのデメリットには、投資コストの回収が長期化すること、投資判断が難しいこと、CX への投資が必要であることが挙げられます。
近年ソフトウェア市場は買い切りのインストール型から SaaS へと移り変わっており、 SaaS 業界は多くの投資家や大手の企業が目をつけている業界です。
「富士キメラ総研」(ソフトウェアビジネス新市場 2022年版 (市場調査レポート)1)によると日本の SaaS 市場規模は2021年時点で9,269億円であったところから、2026年には1兆6,681億円と約1.8倍になると推定されています。
したがって、将来生き残っていく企業になるには、SaaS のビジネスモデルを適切に把握して、それらの知識を活用していくことが重要です。
本記事では、SaaS というビジネスモデルについて、メリット・デメリットを含む特徴や重要な指標、戦略を紹介します。
目次
弊社の「サブスクリプションビジネスのガイドブック」でも SaaS ビジネスの成長戦略についてまとめておりますので、ご活用ください。
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SaaS ビジネスモデルの特徴
SaaS のビジネスモデルの戦略を考えるうえで重要なのは、SaaS というビジネスモデルの性質上、意識するべきことがこれまでのビジネスとは異なることです。
SaaS のビジネスモデルとは?
SaaSとは、クラウド上に作られたアプリケーションにインターネットを通じてアクセスして利用できるソフトウェアのことで、SaaSのビジネスモデルにおいては、顧客と関係を築くことが重要です。
SaaS の特徴
SaaS ビジネスモデルの特徴は、毎月の売上を積み上げるストック型のビジネスであるため、今後1年間の売上といった先の数字が読みやすいモデルであることです。
しかし、一回で原価や販売にかけたコストを回収できないため、顧客に長く、高単価で利用してもらう必要があります。顧客が継続利用しない場合、原価や販売にかけたコストを回収できないため、赤字になる可能性が高まってしまいます。
売り切り型ではなく利用型である
SaaSは、従来のビジネスのような成約が必ずしも成功の指標とはならない点が大きな違いだと言えます。モノではなくコトという顧客にとっての価値を販売しているため、顧客体験の重要性が高いモデルです。
顧客体験とはサービスへの満足度やその他企業と関わるあらゆる体験(サポート体制、オンボーディング体験、カスタマーサポートとのコミュニケーション)を指します。
サービスの機能ではなく、あらゆる接点で顧客の成功をサポートすることで、顧客にとって自社サービスが無くてはならない存在としていくことが欠かせません。「自社のことをよくわかっている」「ビジネスの成長に真摯に取り組んでくれている」と顧客が感じることが大切です。
SaaS のビジネスでは、こうしたサポートをカスタマーサクセスという部門が担います。顧客の成功に特化した専門の部門を設置し、顧客の期待値を超える体験を能動的に提供していく心構えが必要です。
あわせて読みたい:SaaSに欠かせないカスタマーサクセスの役割とは?
SaaSビジネスモデルがもたらすメリット
SaaS ビジネスは従来型のビジネスのやり方とは異なるため、戸惑う部分も多いかもしれません。しかし、このビジネスモデルは、上手く駆動すると爆発的な事業成長につながります。
時間の経過とともに収益が高まる
顧客の継続利用により継続的に一定の収入が入ってくるため、蓄積された収益が損益分岐点(原価や販売にかけたコストの額)を超えると利益率が高まります。
単純な例で考えると、毎月のサービス開発や維持コストに 200 万円、販売に 200 万円かかる場合、月のコストは 400 万円です。顧客が支払うサービスの料金が毎月2万円だとすると、顧客 200 社で月のコストがカバーでき、200 社以上が支払う分は利益になります。
この収益増加のカラクリとなる変数は、顧客のリピート率と、一回あたりの購入単価です。
顧客が自社を欠かせない存在だと感じていれば、価格を理由に他社に乗り換えたりせず、毎月(毎年)の利用をリピートしてくれます。
自社に顧客がロイヤリティを感じていれば、より高いグレードにアップしたり、購入機会も増え、顧客単価が向上します。
コンバージョン支援サービスを提供する invesp社のブログ記事 によると、『既存顧客への利用販売率は 60ー70% となる一方で、新規顧客への販売は 5ー20% になる』、『新規顧客に比べて、既存顧客は新製品を試す傾向が 50% 高く、支出額は 31% 高い』2)と述べられています。
製品の機能や価格での差別化が難しくなっていて、初期費用が少なく顧客の乗り換えコストが低い状況では、企業への共感やロイヤルティが重要な収益のドライバーになります。
あわせて読みたい:顧客ロイヤルティとは?高めるメリットやそのための施策を紹介
生産性の高い新規獲得手段を得る
自社との関わりのなかで、ポジティブな感情を抱いている顧客は、知人や仕事仲間など自身のコミュニティ内、またはインターネットを介した口コミなどで自社のサービスの良さを広めてくれます。
あなたがオンライン上で何かしらの製品・サービスを購入する際に、そういったレビュアーからの口コミは、重要な要素になっていませんか?身近な例として、LIPSや食べログといった口コミアプリ、Amazon のレビューなどがあります。
また、あなたがオンラインで買い物をするときに、何を買うのかで口コミが重要な要素になってはいないでしょうか?例えば友人におすすめされたものが気になって、すぐに調べたり購入した経験はないでしょうか?
実際、従来のマーケティングと比べてもリファラルでの新規獲得のメリットは大きいと言えます。JayBaer は、消費者の92%が直接知っている人からの推奨事項を信頼しており、匿名のレビュアーがブランドにオンラインで投稿する時の信頼率は70%であると明かしています。
リファラルの2つのメリット
リファラルにはコスト面と収益面での2つのメリットがあります。
コスト面では、広告や展示会などマーケティングにかけていたコストを削減できます。
収益面では、リファラル起点の顧客は ROI が高くなります。
人間心理から、購入のインセンティブには知人や家族からの推奨が重要で、結果として、リードタイムの短縮につながります。知人や家族からの推奨ではじめたものは、認知的不協和により、推奨した側も他の競合に乗り換えたりしないという側面もあります。
データに基づいた意思決定ができる
SaaS のビジネスでは、金額とそれを顧客が支払う期間を変数とします。一度獲得した顧客は繰り返し支払いを行うため、企業は自社に対して顧客が支払う金額を予測できます。
こうした将来の利益や収益を定量的に測定するには、LTV や CAC を用いた推定方法があります。
企業は、収益のうち、リピート率が高いこと、単価が高いこと、どちらに起因するのかをデータから紐解き、投資エリアの洞察を得ることができます。例えば、リピート率が高い場合は、比較的 LTV の高い人に向けたプランのアップグレードや新規獲得に投資していくのが望ましいと判断できます。
今後も市場自体が拡大していく
OneCapital 株式会社の「Japan SaaS Insight 2022」によると SaaS の市場規模はポテンシャルを秘めていることが分かります。さらに SaaS の上場企業は主要指数をアウトパフォームし続けており、OneCapital は「BtoB 取引のデジタル化が加速する」と予測しています。
50%以上の高成長率を誇る新興 SaaS 企業が出てきており、これからもまだまだ伸びる市場だと言えます。
SaaSビジネスモデルがもたらすデメリット
投資コストの回収が長期化する
SaaSビジネスモデルでは、収益は累積なので、獲得にかけたコストをすぐには回収できない点がデメリットです。
最悪のケースは、コストを回収し切る前に解約されてしまうことです。この状態では、顧客を獲得すればするほど赤字が膨らむ状態になります。
だからこそ、SaaS のビジネスには顧客からの信頼、サービスそのものの価値を包括した顧客ロイヤルティ軸の経営が求められます。
加速度的な成長の代償に投資の回収が長期的であるということを、あらかじめ理解しておく必要があります。
投資判断が難しい
SaaSビジネスモデルは、収益を積み立てていくビジネスであるため、「どれだけ売れたのか」が一目でわかりにくくなります。
収益に関しても、「この顧客1人あたり@@ほどの売上が見込まれる」等、将来の売上を推計する形となります。
つまり、組織として SaaS ビジネスの成功を評価する手立てがないと、利益を見込めず、投資に足踏みしてしまいます。従来の収益性の測り方を用いると、赤字になってしまうため上層部から収益性が低い事業と判断されてしまい、適切なリソースをさけなくなってしまう場合もあります。
無料ダウンロード:サブスクリプションビジネス経営者が見るべきKPI10選
CX への投資判断を迫られる
これまで見てきた通り、SaaS ビジネスモデルで利益を出すためには、顧客との継続的な関係維持が重要です。
こうした顧客との関係構築には、カスタマーエクスペリエンス( CX )の向上が欠かせません。特に購買の意思決定時は、競合との機能の比較や価格ではなく、サプライヤーがどれほど見込み顧客を気にかけているかを見込み顧客が自覚しているかに左右されます。
McKinsey の調査で「購入体験の70%は、顧客が自分がどのように扱われていると感じているかに基づく」とされているように、企業が投資するべきは顧客体験の向上だと言えます。
SaaS ビジネスの重要指標とKPI
正確なデータの可視化、及びその活用がサブスクリプションビジネスを成功させる鍵となります。以下では、SaaS ビジネスの重要指標と KPI を紹介します。
MRR
MRR(「月間経常収益」)とは、ある月における収益を示す指標です。毎月決まって発生する売上のみを計算対象として、初期費用や追加購入費など1回しか発生しない売上は除いて計算されます。
計算式:MRR = 前期MRR + 新規MRR – Revenue Churn
予め区分のレベル訳を行い、自社における目標数値をどこにおくかを決めておく必要性があります。
失われたMRRが高い場合は、製品と元のUSPを確認する時期であることを表しています。
MRRはその月以降も継続する収益を示しているため、そこから年次の収益予測 ARR(「年間経常利益」)を算出でき、ARR=MRR✖️12 で計算されます。
Churn rate
Churn rate(「解約率」)とは、ある一定期間にサービスを解約したり、有料会員から無料会員にダウングレードした顧客の割合を指す指標です。
計算式:今月解約されたアカウント数/前月のアカウント数
目安は、SaaSスタートアップの場合1か月あたり3%以内だと「順調」と言え、大企業の場合1か月あたり同0.5〜1%程度が理想です。
CAC
CAC(「顧客獲得コスト」)とは、ある一定期間において顧客1人にかかる総コストを表したものです。この値が低ければ低いほど、よりコストをかけずに顧客を獲得できていることになります。
計算式:=獲得獲得費用の総合計/獲得顧客数
一般的に CAC が LTV の3分の1以下に抑えられていれば、ビジネスは健全だと評価されます。この目安よりも高い場合は、CAC を抑える、または LTV を向上させるといった対策が必要です。
LTV
LTV(「顧客生涯価値」)とは、一社(一人)の顧客がその生涯においてどのくらい商材を購入してくれるかを表す指標です。
計算式:=平均購入単価✖️平均購入回数✖️平均継続年数
計算式:=ARPU(顧客平均単価)/Churn Rate 解約率
CACに対するLTVの比率が高いほど経営の状態が良いと言えます。
LTV を高めるには、購買単価を高めるか、解約率を下げて契約期間を伸ばす、という2つの対策が考えられます。
SaaSの代表的なビジネスモデルの例
Google Workspace
サービス内容
Google Workspace は、Google が提供するビジネス向けの業務・コミュニケーションツールです。社内外への情報共有や事務作業を効率化でき、リモートワーク対応に役立つツールが揃っています。
Google Workspace のアプリケーションは、シンプルな UI で誰でも操作しやすいように設計されている点が特徴です。
プラン内容(料金)
Business Starter | Business Standard | Business Plue | Enterprise |
680円 | 1,360円 | 2,040円 | 問い合わせ |
※1ユーザー当たり
戦略
2020年10月に「 G Suite 」から「 Google Workspace 」へ名称を変えてリブランディングしました。コロナ禍で増えたリモートワーク中心の働き方に合わせて、メッセージング、ミーティング、ドキュメント、タスクなどの機能を統合し、新しい働き方のニーズを満たす一体化した体験の提供を目指しました。
Slack
サービス内容
Slack は、2013年8月にアメリカでリリースされたコミュニケーションツールです。インターネットに接続できる環境であれば、PC でもスマートフォンでもすぐに利用することができます。
プラン内容(料金)
フリー | プロ | ビジネスプラス | エンタプライズ グリッド |
0円 | 925円 | 1600円 | お問い合わせ |
※1ユーザーあたり
戦略
ローンチ当初から「プロダクトではなく、イノベーションを売る」ということに注力していました。単なるコミュニケーションツールとしてではなく、「コミュニケーションのコスト削減」や「手間いらずのナレッジマネジメント」、「Eメールの75%削減」といったメリットを全面的に押し出し、競合のツールとは別のレベルでのポジショニングを獲得しました。
また、初期段階からユーザーのフィードバックを活用し、ユーザーの体験を向上させることを重視してきました。初めてプロダクトを使うユーザーの立場になって、使いづらさの原因となりうるあらゆる可能性を見つけ出し、完璧に近いプロダクトを作るための改善を重ねてきました。
Stripe
サービス内容
Stripe は、2011年に開始されたオンライン決済サービスです。銀行や金融機関、デジタルウォレットなどと連携しているため、企業は決済における複雑な業務を排除し、ビジネスに集中できます。
プラン内容(料金)
決済成立ごとに3.6%
初期費用は無料、月額費その他手数料は一切なし
戦略
開発者に優しいペイメントサービスという圧倒的ポジショニングを創業当時に確立し、エンジニアや初期投資家の口コミにより、プロダクトが拡散されました。
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また、弊社ではトップセールスの水準・内容を再現できる営業支援 SaaS 「Magic Moment Playbook」を提供しています。
Magic Moment Playbook の機能についての詳しい情報は こちらの記事「営業改革を実行するための主要機能」 をご覧ください。
Magic Moment Playbook サービスサイト:https://lp.magicmoment.jp/magic-moment-playbook
導入事例:https://www.magicmoment.jp/academy/category/case/
《引用文献》
1)株式会社富士キメラ総研,”ソフトウェアビジネス新市場 2022年版”.(発刊2022-07-22).https://www.fcr.co.jp/report/221q09.htm, (閲覧2023-03-01)
2)invesp,”What is Conversation Rate Optimization”.(更新2023-06-28)
https://www.invespcro.com/blog/customer-acquisition-retention,(閲覧2023-03-01 )
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