【チャーン改善】カスタマーサクセスを実現するインサイトの発見方法とは?

サブスクリプション時代にカスタマーサクセスが重要視される理由とは?

もはやカスタマーサクセスを重視しない企業は少ないでしょう。日常のあらゆるものが「サブスクリプション化」される現代では、カスタマーサクセスの実現は極めて深刻で緊急度が高いです。

それは、顧客の行動が「所有」から「利用」に変化したことに起因しています。SaaS に代表されるサブスクリプションモデルでは、購入時の出費を抑えられるだけでなく、不必要だと感じたらいつでも利用を停止することができるため、買い手にとってはとても都合のいい状況です。

では、サブスクリプションビジネスを展開する企業側はどうでしょうか。サブスクリプションビジネスにおける成功の鍵は、顧客との長期的な関係を築くことです。顧客獲得にはコストがかかるため、チャーン(解約率)が高いと、投資額に見合った結果を導くことができません。

それどころか、チャーンの原因を特定しなければ顧客の流出に歯止めが効かなくなり、経営を圧迫させる恐れがあります。SaaSquatch による調査では、チャーンが5%上がると、収益が25%から125%も減少することが説明されています。1)

そこで本記事では、「カスタマーサクセスを導入したが、期待していた結果を得ることができない」と感じている方に向けて、チャーンが高騰する原因を特定し、長期的に課題発見・改善を実現する方法を解説します。

カスタマーサクセスに失敗する要因は?

チャーンが高騰状況にあるとき、カスタマーサクセスが課題解決のミッションを追うケースが多いですが、そもそもなぜチャーンは発生してしまうのでしょうか?

それは多くの場合、顧客体験に問題があるからです。顧客は自分の課題を解決するための手段としてプロダクト・サービスを購入するため、期待していた体験や成果を得ることができなければ、他の選択肢を探すでしょう。

では、カスタマーサクセスの人員を増やせばチャーンは改善されるのでしょうか。それは大きな誤解です。チャーンが多いセグメントに、能力の高いカスタマーサクセス人員のリソースを浪費してしまう恐れがあります。カスタマーサクセスに投資しても、それは企業の他の部分における根本的な欠陥の穴埋めにはならないからです。

  • プロダクト・サービス自体に問題があり、カスタマーサクセスがフォローできない
  • マーケティング・営業・カスタマーサクセスが顧客データを共有しておらず、同じ情報ばかりを提供してしまう
  • それぞれの部署で異なる指標を追い求め、不適切なタイミングでリードにアプローチをかけてしまう

といった要因が顧客体験を悪化させ、カスタマーサクセスの実現を阻害している可能性があります。サブスクリプションモデルに移行した企業がチャーンの高騰に課題感を抱いているとき、チャーンの改善はカスタマーサクセスだけが担う役割ではなく、組織全体が意識するべき重要課題なのです。

カスタマーサクセスを成功させる正しい意思決定を行うためには

チャーンを改善するためには、顧客体験を悪化させている問題を特定し、改善するための正しい意思決定を行います。どのようなステップを踏むことが、カスタマーサクセスの実現に必要なのでしょうか。

散らばったデータを統合する

その1つの方法として、ツールの API 連携が有効です。近年では Salesforce や HubSpot を代表とする MA・CRM・SFA ツールで顧客の情報を管理する企業が増え、部署ごとに異なるツールを導入しているケースが多いです。これが原因で分断されていた情報を、API を使用してツールを連携し、マーケティング・営業・カスタマーサクセス全ての部署における顧客とのタッチポイントを管理します。

連携させることで、さらに多くの属性データ・行動データが確認できます。例えば、MA ツールでは、会社の基本情報やウェブ上で収集したデータが管理されます。CRM・SFA ツールでは案件の進捗に加え、組織内のメンバーとのやり取りから、担当者の性格や興味関心の解像度を上げることができます。

データを繋げてカスタマーサクセスを実現する
データを繋げてカスタマーサクセスを実現する

そのため、1つのツールを運用していた時には見つけることができなかった、長期的な関係が見込めるロイヤルカスタマーの特性や、チャーンが発生した顧客の共通点が見つかります。チャーンが起こりにくい顧客層を特定すれば、契約後の LTV が低い顧客への訴求活動を行う必要がなくなるため、重要度の高いセグメントに能力の高いメンバーを投資できることも、メリットの1つです。

API 連携の重要性と注意点をこちらの記事で解説しています。

分断された組織を連携する

マーケティング・営業・カスタマーサクセスに異なる KPI が設定されていることが原因で、各部署の部分最適に陥ってしまうことも少なくありません。

KPI として設定する指標が異なっていても、最終的に達成するべき共通の目標は「顧客体験の向上」です。その目標が組織全体に浸透していないと、顧客体験を阻害する要因を特定するためにデータを統合しても、コストに見合った成果を出すことができません。

集約されたデータから顧客体験を向上させる気づきを発見し、そのインサイトを実際にサービスに反映させることができなければカスタマーサクセスは実現せず、チャーンは下がらないからです。

そこで、分断されていた各部署の連携を強化し、継続的にチャーンの課題発見・改善を行うプロセスを構築します。例えば、一般的な SaaS 企業の収益に関わる KPI には、チャーンの他にも MRR (月間経常利益)・Unit Economics・セールスベロシティなどがあります。これらの指標を算出する際には、チャーンや LTV の値を必要とするため、各部署が設定する KPI の関係性が明示されます。

KPI の関係性が明確化されれば、必然的にお互いの指標を意識するようになり、チャーン高騰の責任がカスタマーサクセスだけに問われることもなくなるでしょう。サブスクリプションビジネスの成功に欠かせない KPI 10選をこちらで一覧にまとめています。

個々の顧客は異なる課題を持ち、その解決策としてプロダクト・サービスを購入します。そのため、一度の修正で優れた顧客体験を保証することはできません。顧客のライフサイクルを定期的に観測・分析し、組織全体でチャーンを改善します。カスタマーサクセスを実現するうえで、組織全体の連携は欠かせません。

マーケティング、エンジニア、営業、カスタマーサクセスといった顧客体験に取り込まれる異なる機能の全てが連携された状態であれば、チャーンが高騰する前に課題を発見し、事前に対処することも可能になるでしょう。

カスタマーサクセスを実現するためには

SaaS を筆頭に多くの企業が参画しているサブスクリプションビジネスでは、新規顧客の獲得よりも、既存顧客の維持が事業成功の鍵となります。そのため、チャーンの高騰はビジネスの存続に致命傷を与えかねません。

チャーン発生の原因をいち早く特定するためには、組織内で分断されたデータを統合し、顧客ライフサイクル全体を観測・分析することが重要です。カスタマーサクセスを成功させる正しい意思決定が実現すれば、企業のロイヤルカスタマーとなる顧客も増えるはずです。データを駆使して全社的にカスタマーサクセスに取り組みましょう。

ただし、API 連携で各ツールに管理されたデータを統合しても、API の仕様変更やサーバーの障害、データの不正確性といった課題は発生します。それらの問題に対応できる IT スキルを有する人材が組織内にいても、データベースに正確なデータを入力する企業文化が醸成されていなければ、事実を見誤った意思決定をしてしまう恐れがあります。

加えて、実際に部署間の連携強化を試みても、リード獲得から案件化・受注・契約更新までのプロセスが複雑化されていて、プロセスを包括的に再設計することが難しいと感じる方も多いはずです。顧客獲得競争が激化するサブスクリプションビジネスにおいて、力のある企業の組織構造や導入ツールを表面的に模倣するだけでは、長期的な成果を生み出すことはできません。

以上のような課題が原因で、多くの企業が顧客を中心とした正しい意思決定に失敗しています。そこで、こちらの「顧客中心のデータ分析入門編」では、サブスクリプションビジネスが成功するポイントや、顧客中心の施策を導入するための方法などを解説しています。「カスタマーサクセスを実現するために、正しい意思決定をしたい」とお考えの方は、是非この機会に併せてご覧ください。

サブスクリプションビジネスの売上が伸びる 顧客中心のデータ分析

《引用文献》

1)SaaSquatch. “Calculating Churn Rate and 12 Customer Churn Statistics”. (更新2023-07-20).
https://www.saasquatch.com/blog/calculating-churn-rate-12-customer-churn-statistics/,(参照 2019-08-29)