インテントセールスとは?インテントデータによる効率的な ABM の進め方
- インテントセールスはユーザーのオンライン行動から「購買意思」を持つ企業を特定しABM手法を用いて営業活動を進める戦略であり、ABM(アカウントベースドマーケティング)は特定企業をターゲットに売上を最大化するマーケティング手法である
- インテントセールス/ABMでは、IPトレースバック技術を使用してウェブ上の行動から「購買意思」を持つ企業を特定し、メールアドレスを集めてセールス活動を展開するプロセスを通じて、従来は見過ごされがちだった「ダークファネル」の顧客層を明らかにし、より効果的な商談へと繋げることが可能である
- 本記事では、実際にインテントセールス / ABM を成功させた Gavity 社の事例を紹介している
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目次
インテントセールス / ABM とは?
インテントセールス / ABM とは?
ABM とは、アカウントベースドマーケティング(Account Based Marketing)の略称です。これは、特定の企業を重点的にターゲットにして、その企業からの売上を最大化することを目的としています。一般的なマーケティング手法、リードジェネレーション(Lead Generation)では、まず幅広い見込み顧客を獲得した後、本当に興味を持つ顧客に絞り込みを行います。それに対して、ABM では、最初から売上の期待でき、優良顧客になりそうな企業に焦点を当て、その企業に合わせた特別なアプローチをします。
インテントセールスとは、インターネット上での行動履歴などを分析し、「購買意思」を持っている企業を見つけ出すセールス手法です。それらの「購買意思」を持つ企業に対してABM の手法を用いて営業活動を進めます。「Intent Sales」という用語は、英語圏では一般的ではないものの、日本国内ではインテントデータを用いた効率的な営業手法を指す言葉として徐々に広まりつつあります。
本記事では、Gartner のリサーチ:『Accelerate Efficient Growth With ABM 』に基づいて、インテントデータの種類、インテントデータをABMに活用する方法、インテントセールスの効果の測定方法をご紹介します。
インテントセールス / ABM 流行の背景
近年、ソフトウェアのセールスにおいて、ABM の実行や、インテントデータを使ってどの顧客に重点を置くかを絞り込むことの重要性が指摘されるようになりました。その背景には、以下のような理由があります。
- 承認層の増加:企業の意思決定が下から上への「ボトムアップ」方式に変わり、多くの人の承認が必要になった
- コスト意識の増加:財務部門がマーケティングやセールスの分野に関わるようになり、コスト管理がより慎重になりました。
- 収益性の重視:マーケティング施策がどれくらい効果があるかを示す、ROI(投資対効果)を明確にする必要性が出てきた
こうした変遷の中で、企業のマーケティング活動は「いかなる代償を払っても成長する」というマインドセットから、ABM を実行し効率的な成長を求めるようになりました。
インテントデータとは?
Intent とは、英語で「目的」や「意図」を表す単語です。
インテントデータは、ユーザーのオンライン行動データを集め、どんなことに興味を持って行動しているかを分析しています。インテントデータ収集の目的は、自社のサービスに興味を持っているターゲットを効果的に見つけ出し、ABM に繋げることです。
インテントセールス / ABMのプロセス
Gartner の調査によると、ある時点で新しいソフトウェア導入を検討している企業は、全体の5%しかいません。そのため、幅広い企業にアプローチするのではなく、最初から購買可能性の高い企業を見つけ出す必要があります。
インテントセールス / ABM では、インテントデータを使ってこのような企業を特定します。具体的には、IPトレースバック技術を用いて、ウェブ上の行動から「購買意思」のあるアカウントを見つけ出します。それから様々なツールを用いて、企業のメールアドレスを集めたリストを作り、セールス活動を進めていきます。
BtoB ソフトウェア導入を検討している人は、業務時間の半分をサービス検索に費やすといわれています。しかし、従来は、このような顧客行動は可視化されておらず、顧客の「購買意思」に気づくことができていませんでした。インターネット検索・口コミ・分析調査などのアクティビティを調査することで、これまで見過ごされてきた顧客層、つまり「ダークファネル」を探し出すことができます。インテントデータによって、自社サービスに興味を持っている顧客の情報を知ることができるのです。
具体的な、インテントセールスのプロセスは以下の通りです。
- 行動の探知(Detection):
最初に、インターネット上で何をしているかを調べて、サービスに興味を持っている匿名のアクティビティを検出します。
- 企業の特定(Identification):
次に、どの企業がサービスの購入に関心を示しているかを特定します。
- 連絡先の表示(Match contacts)
その企業のウェブサイトのドメインから、連絡できるメールアドレスを探します。
- チャネル構成(Orchestration)
最後に、その企業に合わせた販売戦略を立てて、どのチャネルでアプローチするかを決めます。
これらのステップを踏むことで、より速く契約を結ぶことができ、契約率や顧客との長期的な関係を築くことが可能になります。
インテントセールス / ABM実行に向けた4つのステップ
ABM(アカウントベースドマーケティング)を始めるのは、すぐに結果が出るような簡単なことではありません。通常、マーケティング部門から始めて、徐々にセールス部門へと広がっていくことが多いです。ここでは、インテントセールスやABMを始めるための、4つの具体的なステップについて説明します。
1. インバウンド需要を促進させる、最適な投資を行う
Gartnerの調査によると、ABM(アカウントベースドマーケティング)を成功させるためには、マーケティング予算の平均で25%をABMに使う必要があるようです。25%と聞くと、かなりの投資と思われるかもしれませんが、企業がすでに持っているリソース(例えば、プログラマティック広告やメールアドレスなど)の中から、製品やサービスを買う意志があると思われるターゲットを見つけることができます。インテントデータに基づいて、優良な見込み顧客にターゲットを絞ることで、ABM への投資割合を確保することができます。
2. 適切なインテントデータの組み合わせを作成する
マーケティング活動において、アカウント情報や連絡先のデータを収集するのは大変な作業です。Gartner の調査では、実際に40%のマーケターがこれに苦戦をしていると回答しています。
ABM(アカウントベースドマーケティング)で使うデータの組み合わせでは、まず「フィットデータ」と呼ばれるものから始めるのが理想的です。フィットデータとは、次のような情報を含みます。
- 企業や顧客の基本情報
- 職種や役職
- デモグラフィック情報(年齢、性別、居住地など)
- 企業の詳細情報(業界、企業規模、収益、予算など)
これらのフィットデータをもとに、インテントデータ(製品やサービスを購入する意思があるかを示すデータ)を使って、特に興味を持っていそうな企業や顧客を絞り込みます。
データが少ないスタートアップ企業などでは、インテントデータを使って、持っているアカウント情報をより充実させることもできます。
企業が利用できるインテントデータには、主に3種類があります。
- ファーストパーティーインテントデータ:これは、自社のウェブサイトやマーケティングチャネルから得られるデータです。例えば、自社のウェブサイトを訪れた人の行動データなどが含まれます。
- セカンドパーティーインテントデータ:これは、子会社やビジネスパートナーなどが集めたデータです。これらの企業が持つ顧客情報や市場データなどが含まれることがあります。
- サードパーティーインテントデータ:これは、外部のデータ提供会社やベンダーが集めたデータです。これには、様々なソースから集められた市場のトレンドや顧客行動に関する情報が含まれています。
各データの特徴と、そのメリット・デメリットは以下の表の通りです。
ベンダーから提供されるインテントデータ活用をする際は、質が高く価値あるデータを選ぶことが大切です。良いインテントデータを選ぶためのポイントは次のとおりです。
- 理想の顧客に合うアカウントの選定:自社の理想的な顧客像に合致するアカウントを見つけ出し、それらの情報を明確にしてくれるデータを選びましょう。
- AIによるアカウントの分類:AI技術を使って、ユーザーが単にウェブを閲覧しているだけなのか、実際に製品やサービスを購入しようと考えているのかを分析してくれるデータが役立ちます。
- 購買プロセスの可視化:購買プロセスの初期(ファネルの上部)、中期(中部)、後期(下部)のそれぞれの段階を詳しく見ることができるデータを選びましょう。
- 購買行動に基づくインサイトの提供:ユーザーの購買行動から得られる、興味や関心に関する洞察を提供してくれるデータを選ぶと良いでしょう。
これらの特徴を持つデータプロバイダーは、ABM を成功させるのに役立ちます。もし、これらの条件を満たすプロバイダーがいくつか見つかったら、他のオプションやメリット・デメリットを比較検討しましょう。
ABM においては、ビジネスニーズに合わせて、さまざまな種類のデータを組み合わせて利用することが必要です。どんなデータを使うか選ぶときは、社内でデータ管理をしているスタッフと一緒に協力し、どのデータが最も適しているかを慎重に決めましょう。
3. セグメントを定義しファネルに適用させる
さまざまなインテントデータを集めて組み合わせた後は、製品やサービスの購入に関心を示しているような行動をとった顧客グループを特定し、それらを分類します。そして、これらのグループを購買プロセス(ファネル)に適用させます。
インテントデータを使用して、ユーザーの行動を「非常に興味がある」、「少し興味がある」・「興味がない」の3つのカテゴリーに分類します。
- 非常に興味がある(High intent):
ユーザーが製品やサービスへの強い購入意欲を示している場合は、購入プロセスの最終段階である「ローファネル」に対してマーケティング活動を集中します。これには、営業担当者との商談設定やデモの予約などが含まれます。
- 少し興味がある(Medium intent):
サービスの詳細ページへの訪問や特定のキャンペーンへの関心がある場合は、「少し興味がある」と見なされます。このようなアカウントには、購入プロセスの中間段階である「ミドルファネル」に焦点を当てたキャンペーンを実施します。
- 興味がない(Low intent):
製品やサービスに対する明確な興味がまだ見られない場合は、「トップファネル」に分類します。ここでは、ユーザーの興味を引き、関心を高めるためのキャンペーンを展開します。
セグメントが定まったら、次はそれに合ったチャネルや戦略を作ります。インテントデータを使ったメディア広告を展開することで、「トップファネル」への無駄な広告支出を削減し、サービスを購入する可能性のある顧客を育てます。
通常、最初は1〜2つのチャネルで実験を始めるのが良い方法です。そして、どのチャネルが一番効果的かを見極め、それに注力していきます。これにより、戦略をより効果的にすることができます。
下のグラフは、実際にABM を進めるために使われたチャネルを明らかにした、Gartner のアンケート調査結果です。
インテントデータの収集や「購買意思」の分類、そしてその情報をマーケティングファネルに適用し、戦略を策定した後は、これらの全ての情報を一つの図表にまとめましょう。これにより、今後どのようなマーケティング戦略を実行するべきかを一目でわかりやすくすることができます。
以下のような図を作成します。
4. 「ローファネル」の見込み顧客に向けて販売促進をする
ABM の最終段階では、「ローファネル」つまり購買の可能性が高い見込み顧客に、セールスチームが積極的にアプローチします。従来の手法と違い、ABMではマーケティングチームとセールスチームが一緒に働くことが重要です。
この協力体制により、セールスチームの営業活動は、後に組織全体のABM戦略の事例として活用され、ABM文化を全社に広める役割も果たします。セールスチームは、「購買意思」が高い顧客に営業を行い、その過程で得たデータをCRMシステムに入力します。さらに、これらのデータを利用して、マーケティングチームはより精度の高いファネル分類を行うことができます。
このように、マーケティングチームが顧客をファネルに分類し、セールスチームが「ローファネル」にアプローチして得たデータをフィードバックし、その後マーケティングチームがファネル分類を改善するという、PDCAサイクルを回し続けることで、より効果的なABM戦略を実行する組織体制を築くことができます。
セールス部門が取り組む「ローファネル」の段階(製品やサービスの購入意欲が高い見込み顧客)には、大きく分けて二種類の企業があります。一つは、自社のサービスを十分理解している企業、もう一つは、まだ理解が浅い企業です。
自社サービスをよく理解していて、製品への興味が高い企業は、購入の可能性が高いため、迅速に商談を進めることが重要です。これに対して、自社サービスの理解が足りない企業には、製品の理解を深めるための支援が必要です。たとえば、競合他社との比較を行ったコンテンツを提供するなどして、製品理解を助けましょう。
指標を活用して インテントセールス / ABM の成功を測定
上記の「ABM 実行の際の障壁」にあるように、企業のマーケティング担当者の42%がABM の成功を測定することは、難しいと述べています。
ABM の成功を測定する際の主な指標は、以下の4つの観点から考えます。それは、マーケティングキャンペーン、セールスエージメント、オペレーション、そして事業戦略に関するものです。これらの各項目は、長期的な視点と短期的な視点の両方で評価することが大切です。これにより、ABMの成果をより正確に把握し、改善点を見つけることができます。
ABM の効果を測定するためには、以下の表にあるような点を測定しましょう。ABM がどのような側面に貢献しているかを理解できるようになります。
ABM でのマーケティング戦略では、測定すべき項目が多くて複雑になりがちです。これを解決するために、測定項目を階層化して、成功の指標を明確にすることが大切です。具体的には、進行段階に応じて「Walk(歩く)」、「Jog(ジョギング)」、「Run(走る)」の3つのアプローチを使います。
Walk(歩く)のアプローチでは短期的視点で、Jog(ジョギング)のアプローチでは中期的視点で、Run(走る)のアプローチでは長期的視点で、ABM の成功を測定していきます。
また、ABMプログラムの効果的な実行には、異なる部門が協力してインテントデータを活用することが重要です。各部門がどのようにインテントデータを使うか、その具体的な例、そして測定すべき指標については、以下の表にまとめられています。この表を参考に、部門ごとのインテントデータの活用方法を理解し、各部門がどのような貢献をしているかを評価しましょう。
インテントセールス / ABM の成功事例
Gaviti 社は Gartner Digital Markets のインテントデータ活用によって顧客獲得コストの66%カットを実現
インテントセールスの成功例として、請求書の回収プロセスを効率化するソフトウェアを提供するGaviti 社の事例を紹介します。
Gaviti 社は、特に顧客獲得コストの高さという課題に直面していました。これは、効果が低いメディア広告への支出が多かったためです。
この問題に対処するため、Gaviti 社はABM戦略を採用しました。この戦略では、売上に直結するアカウントに焦点を当て、営業プロセスを大きく変えることを目指しました。具体的には、Gartner Digital Markets からのインテントデータをHubSpot と組み合わせて、効率的なアウトバウンドマーケティングを実施しました。営業活動を行うアカウントに対しては、「購買意思」に基づいてスコアリングをし、最適なタイミングでのアプローチを可能にしました。その結果、以下のような成果を達成しました。
- 顧客獲得コストを66%削減
- インテントデータに基づくアカウントスコアリング方法を確立
- アカウント割り当てとアラートを自動化し、セールスにかかる時間を短縮
- 成約に繋がるデモの数が増加
まとめ
今回ご紹介したインテントセールスの要点をまとめると、次のようになります。
- カルチャーシフトとしてのインテントセールス:
インテントセールスは単なる戦略ではなく、マーケティングが主導する利益を生み出す企業文化的な変化です。
- 「ダークファネル」の可視化:
適切に組み合わせたインテントデータを利用することで、「購買意思」があるにも関わらず見過ごされがちな「ダークファネル」と呼ばれる部分を明らかにすることができます。
- セールス部門の積極的な関与が必要:
セールス部門が積極的にインテントセールスに関わることで、顧客獲得の可能性を3倍に高めることができます。
- 数値による効果測定:
各部門が重要な事項を数値で測定することにより、より効果的なインテントセールス戦略を実行することができます。
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