インサイドセールスの KPI と体制づくりのポイント

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ビジネスモデルの転換や新規事業の立ち上げに際して、インサイドセールスを導入する企業が増えており、コロナ以降その動きは更に加速しています。

その一方で、なかなか成果に繋がらないというご相談も多くいただいています。インサイドセールスの成功には、組織を作るだけでなく、KPI 、オペレーションルール、育成計画など、多様な要素を複合的に設計することが必要です。

今回は、インサイドセールス組織の立ち上げや、その KPI の 設計に悩んでいる方に向けて、インサイドセールス組織立ち上げのポイントを解説します。

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インサイドセールスの現状

非対面営業(インサイドセールス)が盛んな米国では、業種、業態によらず約7割の営業活動が非対面で行われています。

日本のインサイドセールス導入率は2019年で1割程度ですが、「1年以内の導入予定」を含むと4割近くにのぼり、急速に導入が進むことが予想されます。

さらに、コロナ禍による非対面の要請が、インサイドセールスの導入を加速する要因になっています。また、コロナ禍によって業績が悪化した企業は、今後急速に業績を回復するポテンシャルをもっていますが、その際にインサイドセールスが有力な武器になることが予想されます。

The Model とは、営業部門が連携して生産性を高め、顧客満足を実現する仕組み

The Model とは、営業をプロセスごとに分業して、それぞれを専任のスタッフが担当する営業モデルです。従来のような、一人の営業マンが顧客開拓から受注後のサポートまでを担当する営業スタイルでは達成できない、生産性の向上と収益の最大化が期待できます。

The Model は、セールスフォースドットコムが開発、提唱した営業モデルで、日本では同社日本法人の福田康隆氏の著書『THE MODEL』によって注目され、導入する企業が増えています。

具体的には、営業活動をマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4つのプロセスに分けて、それぞれに KPI を設定して管理します。

インサイドセールスの仕事の質によってフィールドセールスの成果が左右されるので、The Model ではその点も管理、評価されます。

この記事では、The Model 型営業組織の中の「インサイドセールス」にフォーカスして、その体制づくりと KPI の設定について解説します。

インサイドセールスが日本でも普及した背景

1990年代にアメリカで生まれたインサイドセールスは、2000年代に入ると日本でも徐々に認知され、2010年代の後半からは急速に普及しつつあります。

その背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少と、いわゆる「足で稼ぐ」営業職の不人気があります。

また、インターネットの普及と IT サービスの進化によって、対面営業をしなくてもかなりの程度まで商談を進めることが可能になったのも、インサイドセールスが普及した大きな要因です。

さらに、2020年からのコロナ禍によって、好むと好まざるとにかかわらず、リモートワークや非対面営業が要請されたことも、インサイドセールスの普及に拍車をかけました。

インサイドセールスの KPI と体制

インサイドセールスを運用するには、業務の指標となる KPI が設定され、それがリアルタイムで可視化される環境が必要です。なぜなら、KPI は後で反省するための指標ではなく、毎日の業務に活かす指標だからです。

もう1つインサイドセールスの運用に欠かせないのは、チーム全員と管理者が、定義された「 KPI 」と「仕事のルール」のもとに行動すること、それを可能にする体制づくりです。

KPI がリアルタイムに可視化されていて、営業担当者が日常の活動をルールに定められた形で行っていれば、何がボトルネックになっているか、どこが目標と乖離しているのかを、リアルタイムに把握できます。それによって、マネージャーも打ち手が見えてくるのです。

インサイドセールスの KPI

インサイドセールスの一般的な KPI としては、次のようなものがあります。

  • 架電・アプローチ数
  • 通電率・不在率
  • 担当者リーチ率
  • トスアップ率
  • トスアップ数
  • トスアップまでのリードタイム

トスアップとは、The Model 型営業組織ではとくに重要な概念で、インサイドセールスからフィールドセールスへの案件の引き渡しのことです。

バレーボールのトスと同じで、トスアップの質によって、クロージングの成功率が大きく左右されます。例えば、ある担当者はトスアップの数は少ないが、その人のトスアップは非常に成約率が高いなどです。

したがって、クロージングの KPI である「商談化率」や「受注数」にはトスアップ担当者の貢献度も考慮されなければなりません。

また、トスアップの数だけでなく、トスアップまでのリードタイムもコストとして指標管理する必要があります。

インサイドセールスの体制作り

インサイドセールスの体制は、大きく分けると次の3パターンがあります。

  1. インサイドセールスが案件の発掘から育成を行い、アポを取った商談を外勤営業に繋ぐ
  2. 上と同じくインサイドセールスが案件の発掘から育成を行うが、商談も内勤のクローザーが行う(比較的単価の低い商材の場合が多い)
  3. インサイドセールスがアカウント営業と一緒に発掘・育成・商談を行う(単価の高い商材の場合が多い)

どの体制が自社の商品、商材やお客様に適しているのかを、顧客視点でよく検討する必要があります。

先行 KPI となる PCR について

インサイドセールスの日々の進捗を可視化する KPI も重要ですが、マネージャーにはその成果が上昇局面にあるのか、あるいは停滞しているかなどを見る「先行 KPI」も必要です。それによって来月そして将来の業績を予測できるからです。

この先行 KPI となるのが PCR (Pipeline Creation Rate)です。PCR は 有望リードおよびパイプラインの進捗度を前月比で評価することで、成果のトレンドを把握します。

PCR が上がっていると、売り上げも伸び続けていくと見込めます。PCR を月次、週次、日次でウォッチすることで、パイプラインを詰まらせるネックの存在やそのありかをより早く発見することが可能になります。

また、KPI は今後の売上や成長の度合いを予測するだけでなく、将来の成長傾向も予測できるのが良いところです。

営業人材育成で注目のセールスイネーブルメントとは

セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは「セールスができるようになる人材育成の仕組み」のことです。

正確に定義すると「成果を出す営業パーソンを輩出し続ける人材育成の仕組み」ですが、この記事のテーマに寄せるなら、インサイドセールスの担当となった新人をいち早く一人前する仕組みとなります。

セールスイネーブルメントは2019年くらいから Google 検索数が急上昇している新しい概念です。従来の「OJT で先輩の背中を見て学べと」いう組織依存、上司や先輩の質に依存する人材育成を改め、専門の部署を立ち上げて人材育成の業務を巻き取り、一定レベルまでの育成を行います。

転職が珍しくない米国では、ジョブディスクリプションによって仕事がきちっと規定されているのが当たり前の世界です。日本においても今後、転職サイクルが短くなる方向に進んでいくと考えられます。

こういう環境の中では、Enablement をしっかりとやって、いかに早く新入社員を戦力化するかが非常に重要なテーマになります。

セールスイネーブルメントの効果

セールスイネーブルメントを施策として実施することで営業の組織力向上につながり、次のような効果が期待できます。

  • 営業生産性の向上
  • パイプラインの増大
  • 商談期間の短縮

セールスイネーブルメントがなぜ重要か

The Model 型営業体制では、インサイドセールスが新入社員のファーストキャリアになることも多くあります。そこできっちり成果を出して次のキャリアに進むことが、本人にとっても組織にとっても重要であり、営業組織を構築する要でもあります。

新人が一人前になるまでの期間は、企業にとっては純粋のコストです。

またその期間は、本人にとってはストレスの多い試行錯誤の期間で、先輩・ 上司にとっては付っきりで教えなければいけない期間でもあります。このような非効率を改善し、余計な説明コストをかけないためにも、セールスイネーブルメントが重要な役割を果たします。

セールスイネーブルメントのポイント

俗に「下駄をはかす」と言いますが、新人にオペレーションの詳細を記したドキュメントとそれにリンクした使いやすいツールを与えることで、下駄をはかせるのがセールスイネーブルメントです。

それによって「レベルの高いあたりまえ」に容易に到達し、一人前の基準を速やかにクリアすることができます。

セールスイネーブルメントを実現する2つの要素

セールスイネーブルメントを実現するには、次の2つの要素が必須です。

  • オペレーションのノウハウを蓄積する Sales Playbook
  • アクティビティを補助するツール

Sales Playbook とは

Sales Playbook とは、いわばジョブディスクリプションの進化系で、次のように定義されます。

「営業担当者が販売プロセスの特定の時点で使用できる、繰り返し可能なステップ、アクションおよびベストプラクティスのハンドブック」

その具体的な内容は、例えば、次のようなものです。

  • 戦略とゴールをしっかりと新人に理解してもらう
  • お客様のエンゲージメントを高めるコンテンツ群を用意する
  • 効果のあったEメールのサンプルを、使いやすく体系立てて用意する
  • SNS で何を投げかければよいかのサンプルを用意する
  • フォローアップをサジェストするコンテンツを用意する

企業によっては、「知るべきこと」「タスク」「言うべきこと」「見せるもの」という分類でベストプラクティスを導いています。

Sales Playbook を導入する効果

Sales Playbook を導入することで、例えば「担当者が営業経験を重ねるたびに営業ノウハウが暗黙知化(属人可する)」というありがちな弱点を「組織の学びとして型に言語化(形式知化)する」に変えていくことができます。

このような期待できる変化をまとめたのが下表です。

このように Sales Playbook を導入することでさまざま局面での変化が期待できます。この違いは、ふだん営業活動をしている中では、なかなか見えにくく、導入してみて初めて分かることです。

例えば、昨年5%成績を伸ばして「やった!」と思っていても、Sales Playbook があれば20%伸ばせていた、ということもありうるわけです。

Sales Playbook があれば、良い事例やノウハウをそこに蓄積していくことができ、それをチームで共有することができるのが大きなメリットです。

アクティビティを補助するツール

セールスイネーブルメントを実現するもう1つの要素は、アクティビティを補助するツールです。

アクティビティを補助するツールとは、お客様に接するコア業務を圧迫する「間接業務」を減らしてくれるツールのことです。

営業担当者は、使える時間のうちの6割を間接業務に奪われ、お客様に接するコア業務に使える時間は4割程度だと言われています。

間接業務に費やされる時間を短縮できるツールがあれば、担当者のアクティビティが飛躍的に向上することが期待できます。

CRM や SFA は、どちらかというと管理者のためのツールで、求められるのは「入力」や「記録」などの間接業務に時間を奪われている営業担当者のためのツールです。

このようなツールの例としては、海外製品では Outreach や Gong などがあります。

Outreach は、お客様との対話内容を自動で読み取って、リアルタイムにベストなトーク例や技術的な質問の解答例をポップアップする機能があります。

Gong は、音声解析機能を用いて、お客様とのトーク内容や、お客様の感情の起伏を捉えて、自動で記録、格納していく機能があります。

このようなツールを使うことで、手入力で記録する時間を省くとともに、個人が記録することで生じる揺れを防ぐことができます。ツールを活用することでリードタイムを半分にできれば、パイプラインが2倍になり、アクティビティの向上が実現します。

まとめ

  • インサイドセールスの組織を構築するためには、KPI の設定と自社に合った体制づくりが必要です。
  • ファーストキャリアとしてインサイドセールスを行う社員の人材育成には、セールスイネーブルメントの導入が有効です。
  • セールスイネーブルメントを実現するために必要な2つの要素が、オペレーションのノウハウを蓄積する Sales Playbook とアクティビティを補助するツールです。

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