サブスクリプションビジネスにおけるデータ活用の重要性と効能
- サブスクリプションビジネスの経済圏は過去7年半で成長率350%超
- 顧客獲得に重点を置く管理から、顧客エンゲージメントを中心とする管理にシフトする必要がある
- 投資回収期間が長いサブスクリプションビジネス独自の指標を活用することで、採用計画や投資判断を効果的に進めることができる
近年、サブスクリプションビジネスの普及・浸透が進んでおり、サブスクリプションビジネスの経済圏は過去7年半で成長率350%を上回っています。
サブスクリプション型の SaaS ベンチャー企業である PLAID、yappli、cacco、Betrend は2020年12月に上場をするなど、コロナ禍であってもサブスクリプションビジネスの成長は続いています。
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目次
大企業もサブスクリプションビジネスに取り組んでいる
ベンチャー企業に限らず Adobe、Microsoft、KOMTRAX、GE など、大企業も新しいビジネスモデルとしてサブスクリプションビジネスを始めています。
例えば RICOHは、RICOH Intelligent Workcore という自社の新世代複合機とパートナーのシステムを組み合わせたサービスを提供しています。
自社が提供する新世代複合機と、複数のパートナー企業が提供する会計・販売、ストレージ、顧客管理・CRM、製造・生産管理システムとを一括したサービスをサブスクリプション型で提供することで、顧客への新しい価値の提供に成功しています。
出典:Ricoh Intelligent WorkCore ソリューションページ
SaaS/サブスクリプションビジネスの課題:データ活用
サブスクリプションビジネスの市場が急成長しており、売り切り型ビジネスからのシフトを試みる企業が多い一方で、評価、投資判断、ビジネスの進め方に関して課題を感じている企業も多いのが実情です。
評価に関しては、サブスクリプションビジネスの独自指標がこれまで使っていた指標と異なるため分かりにくい点、そして事業の評価が困難なため上層部へ状況を正しく報告できない点、が課題として挙げられます。
投資判断に関しては、長期的な利益を重視するサブスクリプションビジネスであるにも関わらず、従来同様に PL ベースでの利益・コスト評価がされてしまい、導入のための予算確保や決裁が下りにくいという課題があります。
ビジネスの進め方では、データの収集や加工に多くのリソースがかかる、プライシングやターゲティングをどうすればいいのかわからない、サービスの解約数が増加してもどこに原因があるのかわからない、といった課題が挙げられます。
まとめると、多くの企業がデータに関して課題を感じています。どのようなデータを集めたら良いのか、そのデータをどう分析したらいいのか、データをどう活用したらいいのかという課題を抱えています。
サブスクリプションビジネスの経営管理・必要なデータ
サブスクリプションビジネスは投資回収期間が長いため、受注・売上を中心とした従来同様の指標では評価できない
サブスクリプションビジネスを導入するに当たって重要なのは、他のビジネスモデルとは指標や経営管理手法が異なることです。
サブスクリプションビジネスは投資回収期間が長く、その収益性を従来同様の指標を使って短期で測ることはできません。そのため正確な販売データを可視化して正しく活用していくことが、サブスクリプションビジネスの成功の鍵となります。
サブスクリプションビジネスの3つの指標分類
サブスクリプションビジネスの評価にあたり利用される指標は、損益計算書上の独自指標、PL指標、財務指標の3つに分類されます。
損益計算書上の独自指標
従来の事業の損益計算書上では、
- 売上純利益
- 営業利益
- 経常利益
- 税引前利益
- 当期純利益
の5つの利益が示されますが、定期的に売上が上がるサブスクリプションビジネスでは、
- 正味定期収益(Net ARR)
- 定期コスト(Recurring Cost)
- 定期利益(Recurring Profit)
- 純営業利益
- 新規年間定期収益(New ARR)
- 期末年間定期収益
で表されます。
PL 指標
従来の事業では利益に関連する指標として、売上高、営業利益、経常利益がありますが、サブスクリプションビジネスでは、
- ARR(Annual Recurring Revenue)
- LTV(顧客生涯価値)
- NRR(売上継続率)
- CAC(顧客獲得コスト)
が重要な指標となります。
財務指標
従来の事業では、財務に関する指標として ROE(自己資本利益率)や売上高成長率がありますが、サブスクリプションビジネスでは、
- Unit Economics
- Churn Rate(解約率)
- Revenue Churn
- セールスベロシティ
といった指標が見られます。
サブスクリプションビジネスを正しく評価するためには、上記で述べた正しい評価指標が必要です。
顧客との中長期的な関係性を重視した顧客エンゲージメント指標を重視
またサブスクリプションにおける経営管理では、顧客獲得に重点を置く受注額・売上を中心とした管理から、顧客との中長期的な関係性を重視し、顧客エンゲージメントを中心とした管理にシフトさせる必要があります。
サブスクリプションビジネスでデータとして見るべき経営指標10個
サブスクリプションビジネスでは、以下に挙げる10個の指標について理解し活用することで、ビジネスの状況を多面的に把握することができます。
以下では、各指標の意味合いと算出方法をご紹介します。各指標の詳しい内容については、KPI 10選でも解説しておりますので、ぜひこちらからダウンロードしてください。
IR でも多用される最重要指標
下記の指標は IR でも多用されており、必ず抑えるべき最重要の指標と言えます。
- MRR
- ROI
- CAC
- LTV
- Unit Economics
- NRR
- Customer Churn Rate(CCR)
MRR(月次経常利益)
MRR(月次経常利益)は、ある月における収益を示す指標です。毎月決まって発生する売上のみを計算対象として、初期費用や追加購入費など1回しか発生しない売上は除いて計算されます。
MRR はその月以降も継続する収益を示しているため、そこから年次の収益予測を立てることができます。
MRR = 前期 MRR + 新規 MRR – Revenue Churn で算出されます。
ROI
ROI は、投資した資本に対してどれだけのリターンが得られているのかを示す指標です。ROI を見ることで、投資が効果的に行われているかどうかを確認することができます。
ROI = LTV(顧客生涯価値)/ CAC + CSC(オンボーディングコスト – 導入支援費)で算出されます。
CAC
CAC は、ある一定期間において顧客1人にかかる総コストを表したものです。この値が低ければ低いほど、よりコストをかけずに顧客を獲得できていることになります。
CAC = (広告費 + 人件費 + 各種ツール費用)/ 獲得顧客数 で算出されます。
LTV(顧客生涯価値)
LTV(顧客生涯価値)は、1人の顧客から生涯を通じて得られる収益を表します。
LTV = サービス単価 / CCR(Customer Churn Rate)で算出されます。
Unit Economics
Unit Economics は、1顧客から得られる収益と1顧客の獲得にかかる費用から算出されます。現時点でどれだけ効率的に顧客を獲得できているかを示す指標です。
Unit Economics = LTV(顧客生涯価値)/ CAC(1顧客あたりの獲得コスト)で計算されます。 Unit Economicsの健全なベンチマークは3以上とされています。
NRR(Net Retention Rate)
NNR(Net Retention Rate)とは売上継続率を指します。今月獲得した売上が来年の今頃にはどの位になるのかを示す指標です。
NRR = その月の既存顧客の合計 MRR 増減 / その月の合計 MRR で算出されます。
Customer Churn Rate(CCR)
CCR は、ある一定期間にサービスを解約したり、有料会員から無料会員にダウングレードした顧客の割合を指す指標です。
CCR = その月の解約数 / その月の既存顧客数 で算出されます。
内部管理目的で利用される、サブスクリプション事業運営にとって重要な指標
以下の指標は内部管理目的で利用されており、サブスクリプション事業を運営する上ではとても重要です。
- Magic Number
- Quick Ratio
- Sales Velocity
Magic Number
Magic Number とは、投資したコストに対してマーケティングやセールスが効率的に行われ、コスト回収ができているかどうかを表す指標です。
Magic Number = 前四半期からの売上増加分 x 4 / 前四半期のマーケティング・営業コスト で算出されます。
Quick Ratio
Quick Ratio は MRR の増加分と減少分の比率を表す指標です。MRR が成長の「量」を表すのに対して、Quick Ratio は成長の「質」を表します。
Quick Ratio = (New MRR + Expansion MRR)/ (Churn MRR + Downgrade MRR) で算出されます。
SaaS 企業へ投資実績がある Social Capital は、4以上を SaaS スタートアップのベンチマークとして求めています。
Sales Velocity
Sales Velocity は、セールスチームの顧客エンゲージメント活動がどれだけ効果的に行われているのかを測定する指標です。
Sales Velocity = リード数 × 成約率 × 平均 LTV / 平均商談時間 で算出されます。
顧客エンゲージメントとエンゲージメント活動の定量化が経営管理の第一歩
中長期的な視点が求められるサブスクリプションビジネスでは、顧客エンゲージメントとエンゲージメント活動の定量化が、データを起点とする経営管理の第一歩になります。
顧客エンゲージメントにおいては、Customer Churn Rate(CCR)と NRR を見ることで、顧客にとって自社のサービス(プロダクト)がかけがえのないものとなっているかが分かります。また、Quick Ratio を見ることで、顧客がサービスに対して支払うキャッシュがどれだけ増加しているかを知ることができます。これらのデータは LTV(Life Time Value)に影響します。
企業から顧客に向けたエンゲージメント活動においては、Marketing Velocity と Sales Velocity を見て、マーケティング・営業チームの顧客エンゲージメント活動がどれだけ効率的に行われているかを確認できます。加えて Magic Number で全四半期の投資に対してマーケティング・営業活動で適切なコストの回収が進んでいるかどうかを確認します。これらのデータは CAC(Customer Acquisition Cost)に影響します。
これらの指標を基に、顧客エンゲージメントとエンゲージメント活動を定量化したら、事業全体の収益について Unit Economics と ROI の指標で確認します。Unit Economics では、事業としての投資が現時点でどれだけ効率的に行われているか、ROI では事業全体の投資がどれだけ効率的に行われているかを知ることができ、これらのデータを起点として経営管理の意思決定を行います。
サブスクリプションビジネスにおけるデータ活用の効能
上記で紹介した指標を組み合わると、サブスクリプションビジネスの将来の予測が可能となり、採用計画や投資判断に活用することができます。
採用計画では、現状のリード数・商談数をベースとして今後の成長をシュミレーションし、今後必要な営業担当者を計算することが可能です。
また、投資判断では解約率毎の将来売上累計を予測することができるので、PL ベースではなくサブスクリプションビジネスの特徴を考慮した投資判断が可能になります。
サブスクリプションビジネスで活用できる10個の指標の詳しい内容については、KPI 10選で解説しておりますので、気になる方はぜひこちらからダウンロードしてください。
まとめ
- サブスクリプションビジネスの市場規模はコロナ禍でも成長を続けており、ベンチャー企業に限らず大企業でも導入が進んでいる。
- サブスクリプションビジネス導入には評価、投資判断、ビジネスの進め方での課題がある。
- 受注・売上を中心とした従来同様の指標でなく、投資回収期間が長いサブスクリプションビジネスに即した指標の活用が大切。
- 顧客獲得に重点を置く経営管理から、顧客との中長期的な関係性を重視した顧客エンゲージメントを中心とした管理にシフトさせる必要がある。
- 10個の指標について理解し活用することで、ビジネスの状況を多面的に把握することができる。
- 指標を活用することでビジネスの将来の予測をし、採用計画や投資判断に効果的に使うことができる。
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