TOPPAN がなぜデータの統合を進めているのか?【イベントレポート】
2023年11月28日、Magic Moment ではトークセッションイベント「TOPPAN がなぜデータの統合を進めているか?その背景と統合状況について」を開催しました。TOPPANホールディングス株式会社 経営企画本部 経営基盤改革部 情報武装化チーム 内田 智宏 氏をお招きし、Magic Moment 代表取締役 CEO 村尾祐弥が対談を行いました。
当イベントはオンライン・オフライン両方のハイブリッドで開催し、大手企業の経営層を含む総勢160名を超える方々にお集まりいただきました。
トークセッションでは、TOPPANホールディングス株式会社でデータ基盤整備や営業力強化に取り組まれている内田氏の実体験をベースに、事業成長に繋げるデータ戦略について議論が行われました。近年、関心を集めている AI 活用に触れて、営業組織で AI を導入するためのデータ要件についても見解を述べています。本稿ではイベントの一部を抜粋し、ご紹介いたします。
目次
TOPPAN が大規模なデータ統合を進める真意とは
データ統合の目的は、顧客の多様なニーズに応えるため
内田氏:「私たち TOPPAN が長年抱えていた課題の一つが、お得意先様ごとに特定のサービスに結びつきすぎ、他のサービスを提供しきれていないという点でした。お得意先様の抱える課題がますます複雑化していく中、提案するポテンシャルがある他のサービスを十分にアピールできていない状況を招いていました。
例えば極端に申し上げますと、流通企業にはチラシ、出版社には製本といったように、お得意先の発注部門にべったりと張り付かせていただき、業務プロセスの一端を担わしていただいているがゆえに、それ以外のサービスをクロスセルしきれていないといった状況ということです。
このような課題に対処し、お得意先様の多様なニーズにマッチする機会を創出するために、ONE TOPPAN PLATFORM の構築に着手しました。」
内田氏:「プロジェクトのきっかけは、『Web創注活動』という取り組みから始まりました。デジタルマーケティングセンターが中心となり、BtoB デジタルマーケティングに取り組みました。この活動が成功裏に進むと、全社展開が決まり、デジタル創注基盤の整備、推進人財の育成、そして活動費の提供の三本柱で、姉妹サイトは11個にまで増えました。
2022年に入り、TOPPAN は大きな変革期に突入しました。トッパン・フォームズの完全子会社化や、凸版印刷から『印刷』が外れて TOPPAN という社名に変更したこと、そしてホールディングス化に移行したことなど、この変革の中でデータ統合のチャンスが訪れました。」
データ統合によりビジネスチャンスを見える化
内田氏:「各種システムの連携、CDP の構築などを一気に着手して、現在はデータの見える化に重点を置いています。お得意先様別潜在ニーズ見える化ダッシュボードやサービス別潜在ニーズ見える化ダッシュボードを作り、営業やサービス担当者に使いやすい情報を提供しています。
これにより、アカウント営業がお得意先様の動向を把握し、サービス別にお得意先様の興味を理解することが可能になります。その結果、新しいビジネスチャンスの発見やクロスセルの機会を最大限に引き出し、効果的な営業活動が促進されています。将来的には AI を活用してより高度なデータ活用を実現したいですね。」
成果創出を徹底的に意識したデータ統合
内田氏:「データ統合において、通常は統合するデータの種類やシステム間の連携がフォーカスされがちですが、それよりも成果を意識した活動を社内に浸透させることが重要だと考えています。成果に直結しない活動は継続されないですし、継続的な活動がなければデータは蓄積されないということです。
そのため、私たちは「そのツールを使って、どのような活動をすることが成果に繋がるのか」ということを最優先に、ツール設計や教育研修プログラムの開発、運用制度の構築を行なっており、成果創出とデータ蓄積を進めています。各ツールが活性化し、データが蓄積されてはじめて、意義のあるデータ統合は実現すると考えています。」
複数の部門・ツールに分散するデータ資産を事業成長に活かすために必要なデータ戦略とは
事業成長に資するデータ戦略フレームワーク “TRUE INDEX”
村尾:「私たちは、事業成長を支えるために TRUE INDEX というデータ戦略フレームワークを用いています。このフレームワークは、データの記録と活用においてそれぞれ4つの要素から構成されています。
このようなデータの取り扱い方が、我々が掲げる「GO TRUE WAY」というコアバリューを具現化しています。「Garbage in, Garbage out」(無意味な入力データは無意味な出力を生み出す)にならないように、TRUE INDEX に沿ったデータ活用が成果に直結すると信じています。」
収益向上を目指す、AI 時代のデータ活用戦略
村尾:「重要なことは、データをどの目的で使い、どの目的で蓄積していくかです。
現在のテクノロジーやデータ収集は、主に管理・改善・可視化の目的で使われています。しかし、AIをより効果的に利用するためには、データの可視化や DX だけでなく、収益向上を目指す業務プロセスのデジタル化が不可欠です。これには異なるデータを同一価値のもとに繋ぐことが必要であり、我々はその方向性を示唆しています。
我々が提案するデータベースの考え方では、共通のデータベース基盤の整備が営業上、成果に向き合うという意味で重要です。各アプリケーションがこのデータ基盤から必要なデータを取得し営業活動などでデータに付加価値がもたらされます。、それをもとに AI (LLM)が動き示唆や活動の指示、レポートとなり、その結果が再びデータベースに戻ってくるという流れが生まれます。これにより、データの利活用を通じて得られる収益の情報や戦略が明確になります。」
村尾:「最終的な目標は、データを活用して収益を上げることです。アポイント1件がどれだけの収益に繋がるのか、その先の顧客価値(LTV)をどう向上させるか。これらを理解することが、未来の営業戦略において欠かせません。事業部門におけるデータは本来顧客への価値を高めるために利用され尽くすべきであって、管理目的だけのためにスタティックに保管しておけばいいものではありません。
我々は共通データベースを活用したプロダクト戦略を展開し、AI を含むデータ活用が収益を生む未来に貢献していくことを目指しています。昨日まで繋がっていなかったデータが今や一体化し、AI が新しい視点を提供してくれる。そういったデータの活用が LLM の登場によって可能になり、真の収益追求へと導いていくと考えています。」
データ資産を活かして、顧客が求める価値提案を実現する営業組織を作る
データを即座に行動に移せる状態が、データ活用の本線
村尾:「データを収集し、加工し、分析することは、それなりに時間とコストがかかります。しかし、このプロセスで得られる示唆を人間が受け取り、それを営業に伝え、最終的な行動に繋げるまでの時間を短縮することが求められています。データを収集したら即座に行動に移せる状態を作ることが、成果につながるデータ活用の本線です。
ところが、CRM には膨大なデータが蓄積されていますが、その中から何に焦点を当て、どう利用するかが課題です。なぜなら、記録台帳としてただデータを残すだけでは、AI 活用に資するデータにはできず、価値が希薄になるためです。まさに「Garbage in, Garbage out」となってしまいます。
データを即座に行動に移し、成果に繋げるために、我々のプロダクトでは重要なデータのみを同期し、その変更をトリガーに自動的にアクションを起こす仕組みを構築しています。CRM上のデータの変更、例えば何かしらの顧客の動きがあったことなどをトリガにして自動でメールを送ったり、日程を調整するリンクを送信しアポイントの予定を調整、リマインダーを送ることまで自動化することで、営業担当者が自動化機能と共存し顧客への提案に集中できる環境を実現しています。
村尾:「自動化機能と言うと冷たいですが、どんどんお客様に価値を提案して、お客様にとって価値になるかどうか Yes / No をもらうといったことを鋭意やっていくことで、営業1名あたりの生産性も増大していくと考えています。
生産性を縦軸、時間を横軸で考えると、例えば30件しかお客様を担当できなかった営業が、60件担当できるようになったら生産性は倍です。そしてさらに、成約まで平均90日のリードタイムを要していた担当者が平均45日で成約できるようになると、90日間の生産性は単純に何倍になるでしょうか?4倍です。
このようにコントロールできる変数を多く持てるようにすることも Magic Moment のプロダクト開発やサービス提供時の基本です。
そのため、データを活かして顧客が求める価値提案を実現する営業組織を作るためには、AI に対応できるオペレーションの再設計が必要だと考えます。テクノロジーやデータは、今後ますます収益に結びついていくでしょう。皆様と共に考えていきたいですね。」
経営の理解を得て、取り組みを推進するために
最後に、ご参加いただいた方々から頂いた質問に対する回答を行い、本トークセッションは締められました。
– 次期中期経営計画での ROE 8% という目標に対して、本取り組みはどのような位置付けなのでしょうか?
内田氏:「経営の目線から見ると、現場でやっている1つの施策といったご認識だと思います。データ統合という取り組みの内容・意義については、十分にご理解いただいていると思っていて、われわれがどんな成果を出して、どんな報告しに来るのか?と期待してくださっていると思います。
サッカーで例えると、玄人が唸るようなすごいプレーをしたという話は経営陣にご報告しづらく、試合結果の3対0で勝ったという報告を届けたいと思っています。そしてある時、「あの3点を取った時にすごいスルーパスを出した人がいたみたいだよ」と経営陣に認識されていくという、そのような順番だろうと思っています。そのため、まずは3対0で勝たなきゃいけないと思っています。」
– データ統合/管理に時間や追加コストをかける緊急性/必要性が経営から理解されづらく、難しさを感じます。社内で推進力を高めるために意識すべきポイントはありますか?
内田氏:「理解されづらいことと推進力を高めることは別だと思いますが、社内で承認をいただく際、具体的な内容ということも大事だと思うのですが、その取り組みにどの仲間を巻き込んで、どれだけの推進力があるのか、ということを目利きされているんだと思ったことがあります。実際にやれそうな手ごたえをアピールする必要があると思います。」
村尾:「経営側にとっては、自分たちが取り組もうとしていることが明確なペインポイントではないかもしれないと、自信をなくす時があるんですね。それが曖昧模糊とした感じの見え方になってしまうと、理解もされづらいのかなと。」
内田氏:「例えが合っているかわからないですが、私のクローゼットに2年も3年も着ない服が掛かっていて、いつか使うかもしれないと思い、捨てられなかったんです。ところが、それを代替できる別のものを買った瞬間に、その服を捨てる気になれたんですね。
つまり、新しいやり方をすることが目標達成に近づく・効率が良いということの実感がついたら、多分従来の非効率な方法を捨てられるのではないかと思います。」
内田氏ご自身も、TOPPAN グループ内でのデータ統合・活動の更なる発展に向けて、引き続き効率的に成果を出していけるよう取り組んでいきたいと語られました。
本トークセッションでは、内田氏の具体的な取り組みに関する深堀りに加え、データを利用して収益を上げるために、データから顧客の動向を正しく把握し、最適な行動に移せる仕組みを整える重要性について議論されました。
さらに、今後 AI 活用が進む中、データ資産を活動や収益向上に繋げるためには、AI 活用に資する要件設計でデータを継続的に蓄積することが重要になってくると言えるでしょう。
弊社が提供する営業AI行動システム「Magic Moment Playbook」および営業代行サービス「CS BPO」 は、TOPPANグループの会社さまにご導入いただいております。
事例について詳しくは、こちらの事例記事をご覧ください。
登壇者情報
TOPPANホールディングス株式会社
経営企画本部 経営基盤改革部 情報武装化チーム 内田 智宏 氏
凸版印刷株式会社に入社後、営業部門に在籍。大手自動車メーカー、大手広告代理店を担当。株式会社BrandXingへ出向を機に企画開発部門に異動。得意先のCRM戦略策定・運用支援を担当。凸版印刷帰任後は、得意先のデジタルマーケティング戦略策定・運用支援を担当する傍ら、自部門のB2Bデジタルマーケティングを推進。2019年より経営企画本部を兼務。B2Bデジタルマーケティングの全社展開を推進。2023年より経営企画本部を専任。TOPPANグループ全体のデータドリブンマネジメントを推進中。
株式会社Magic Moment
代表取締役 CEO 村尾祐弥
中央大学法学部卒業後、2社を経てGoogle Japan、freeeで営業部門の統括及び責任者として事業成長を牽引。2017年に Magic Moment を立ち上げ、2018年9月より経営を本格化。累計資金調達額22億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。LINE 様や USEN 様、TOPPAN 様、富士通様など、多くのエンタープライズ企業の営業変革を人・テクノロジー・オペレーションの全方向から支援。2021年にローンチした営業 AI 行動システム Magic Moment Playbook は、SMB の大量解約の時期を乗り越え、現在はエンタープライズ企業の生産性向上、LTV 向上を非連続に実現している。
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